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2002-07-01から1ヶ月間の記事一覧

2002-07-31

■ [東雅]東雅総論(30) 古言の義。猶今も遺れるものあるは。亦その幸にぞありける。たとへば猶此樹を伐りて彼枝を接ぐに。彼枝既に長じて。樹となりぬるに及びて。此樹はたゞ其の根株のあるのみなり。されどまた江南の橘。踰v准而自変為v枳といひし事もあるな…

2002-07-30

■ [東雅]東雅総論(29) 古語拾遺に。書契以来。浮華競興。顧2問故実1。靡v識2根源1といひし誠に然なり。我国の古言。其義隠れ失せし事。漢字行はれて古文廃せしに因れる多しとこそ見えたれ。細かにこれを論じなむには。此語と彼字と主客の分なき事あたはず。…

2002-07-29

■ [東雅]東雅総論(28) 其余の音の如きも。亦これに同じ。また此間の語ひとり漢字の音の転ぜしのみにもあらず。韓地の方言の転ぜしも少なからず。たとへば太古の時よりいひ嗣て。海を呼びては。アマといひしを。また韓地の方言によりて。ワタともいひけり。日…

2002-07-28

■ [東雅]東雅総論(27) 旧説に漢字の音を転じて。和訓となせしありといふ事あり。似たる事は似たれど。其義を尽せりとも思はれず。漢字の音を用ひて。其音の転じぬと見えし類は。彼音を転じて。此語となすに意ありしにはあらず。前にもしるせし事の如く。五方…

2002-07-27

■ [東雅]東雅総論(26) それが中また彼字を読て。此事此物どなせしに。其古訓近訓同じからざるも少なからず。たとへば旧事紀に〓読でシギとなされて。日本紀又これによらる。倭名鈔には又読てシギとなレ。また楊氏漢語抄を引て。田鳥の字読む事亦同じ。日本紀…

2002-07-26

■ [東雅]東雅総論(25) たとへば鋺の字の如き。〓ノ字の俗。〓音豌削也といふ也。此間には金椀となして。読てカナマリといふ。其字の金に従ひ。椀の省に従ひぬるを取るなり。梶の字の如き樹杪也といふなり。此には船柁となして読てカヂといふ。其字の木に従ひ…

2002-07-25

■ [東雅]東雅総論(24) 漢字を取用ひられし後に。彼字を読て此間にいふ所の。いづれの事なり。いづれの物なりとなせし。彼と此との義自ら合ひぬるは。論ずるに及ぱず。或は彼字と此間にいふ所との相合はざるも少なからず。凡これらの類世の人概して乖誤也とい…

2002-07-24

■ [東雅]東雅総論(23) 漢字を用ひて。此国の言をしるされしもの。旧事紀を始とす。其字を用ひられし所によりて。古言の義自ら明かなる事も少からず。日本紀またこれに次ぐ。先達の人相伝て。日本紀の文はすなはち旧事紀に因られしなどいふなり。令義解に釈せ…

2002-07-23

■ [東雅]東雅総論(22) 古言の義を求むるに。古事記にしるせし所。其正を得しと見えし事ども多く。古語拾遺これに次ぐ。諸国風土記の中。其徴となしつべき者なきにあらず。日本紀にみえし所の歌また万葉集の歌の詞の如き古人の釈せし所。心を潜むべき事なり。…

2002-07-22

■ [東雅]東雅総論(21) 或説にゝ我国の言に借語の例あり。他の名と言葉とを。其儘に借り用ひて。名づけしをいふ。日を借りて火とし。天を借りて雨とする類これ也といふなり。我思ふ所はこれもまた転語なり。たとへば。火の如きをも。ヒとしるしたらんには。其…

2002-07-21

■ [東雅]東雅総論(20) 其言同じくして其事異に。其名同じぐして其物異なるが如きあり。されど是等の類は。我国の仮字《カナ》をもてしるしぬれば。其字は同じけれども。これを呼ぷには。其声の平上去入。其音の清濁軽重によりて。各自ら相別れて同じからず。…

2002-07-20

■ [東雅]東雅総論(19) また反語とは。かな返しなり。見ゆを目《メ》とレ。きえをケとし。やすくきゆるを雪《ユキ》とするの類也といふなり。古語に目をばマといひけり。マといふ語の転じてメといひし如きは。或は方言の同じからぬにもやよりぬらむ。見るとい…

2002-07-19

■ [東雅]東雅総論(18) 又其説に転語とは。五音相通によりて名づけしなり。上《カミ》を転じて君《キミ》とし。高《タカ》を転じて竹《タケ》とするの類なり。といふなり。上を転じて君といひ。高を転じて竹といふが如きは。然るべし。君といひ竹といふが如き…

2002-07-18

■ [東雅]東雅総論(17) 其略語の例に。略語とはことばを略していふ。ひゆるを氷《ヒ》といひ。しばしくらきを。しぐれといひ。文出《フミデ》を筆《フデ》といひ。墨研《スミスリ》を硯《スヾリ》といふの類也といふなり。古語に氷をばヒといひけり。またヒと…

2002-07-17

■ [東雅]東雅総論(16) 世の古言を解釈するに。上略中略下略等の説あるなり。我思ふ所には異なり。天地の運。古今の変あるが如きも。なを人生の少長壮大あるが如し。太古の時は人の幼なるが如く。古を相去る事のやゝ遠きに至ては。人のやゝ長じて。かつ壮大に…

2002-07-16

■ [東雅]東雅総論(15) これらの事ども。並に我書に註せし所に見えたり。たとへば日をヒといひ。火をホといふが如きは。並に其音単出して言となりしなり。昼をヒルといふは。ヒといふは日也。ルといふは詞助也。星をホシといふは。ホといふは火也。シといふは…

2002-07-15

■ [東雅]東雅総論(14) また言《コト》といひ詞《コトバ》といふ義をも。よくわきまふべき事なり。音発為言。言之成文為詞とも見えたり。先達の説に。発語の詞なりといひ。詞助也(助詞也)などいひし。皆これ詞也。太古の言の如きは。其音単出して。即ち言と…

2002-07-14

■ [東雅]東雅総論(13) 日本紀に見えし下照姫の歌に。天《アメ》ナルヤといふぺきをアモナルヤといひ。ウナ懸《カケ》ルといふべきをウナカセルといひしが如き。其方言によれりしなるベし。されば此歌は夷曲《ヒナプリ》也とはしるされたる也。此余この語は其…

2002-07-13

■ [東雅]東雅総論(12) 我国古今の言。其声音の転ぜし殊に多かり。その変を尽さんには。悉く挙べからず。其大略の如きは。五方の音同じからざるによりて。転ぜしと見えしあり。五音の文相雑れるによりて。轉ぜしと見えしあり。凡五方の音。軽あり重あり。清あ…

2002-07-12

■ [東雅]東雅総論(11) 今世に行はれぬる対馬伊呂波といふもの。また五音五位図などもいふにや。其字母凡五十字。唇舌牙歯喉の音を列ねて図となし。縦横相転じて相呼ぷ法などあるなり。此図はむかし呉国の比丘尼。対馬国に至りて。国人にをしへたりし所なりと…

2002-07-11

■ [東雅]東雅総論(10) されば古より今に至るまで。海外の人のこゝに来りぬる。我国の人其語を訳するによらずしては。彼情を通ずる事をよくせず。たゞ我方域の内に於て。相言ふ所の多からずして足れるなり。しかはあれど。声成文謂之音、音発為言。言成文為詞…

2002-07-10

■ [東雅]東雅総論(9) 我むかし海外の人のこゝに至れるに遇ひて。其言を聞き。其義を問ひし事どもありけり。我東方の言ほど。声音の少なきはなく。西方の言ほど。声音の多きはなし。中土またそれに次ぐ東南の方音は揚れり。東北の方音は濁れり。西北の方音も…

2002-07-09

■ [東雅]東雅総論(8) 我師なりし人の教へられしは。凡経書の正義の如きは。迂闊の言也と思ふ事多かり。後に説者の解釈せし所の理致。通暢なる如きは。恐らくは其本旨にあらじと云ひたまひたりき。我国古今の言の義を尋ぬるに及ぴて。思ひ合せぬる事ども少な…

2002-07-08

■ [東雅]東雅総論(7) されば我国太古の初より。今世に至るまで。五方雅俗の言。風と共に移り。俗と共に易れるのみにあらず。海外諸国の方言の如きも。また相混じぬと見えたり。凡は人の言に於ける。その云ふ所として。其義あらずといふものなし。また其義を…

2002-07-07

■ [東雅]東雅総論(6) 近世に及びては。西南洋の蕃語も。俗間に行はれしありけり。梵語の此間の語となりし事は下に見えたり。禅語の此間の俗諺となりし事は。詳に壒嚢鈔にみえけり。番語の今も世に行はれぬるは。たとへば瑠璃をビイドロといひ。毛布をトロメ…

2002-07-06

■ [東雅]東雅総論(5) それより後。仏氏の書また伝はれる。梵語の如きも。其教と共に此に行はれ。其後又禅教の来れる後。宋元代々の方言をもて我国の俗諺となりしも。亦少からず。ツイートする

2002-07-05

■ [東雅]東雅総論(4) 我国古今の言に相通じなむには。まづ其世を論ずべき事也。旧事紀 古事記 日本紀等の書にみえし太古の語言の如きも。其書撰述の代の人の云ふ所をもて記されしとみえし事もあれど。神名人名また歌詞の如きは。古よりいひ嗣しまゝなる者と…

2002-07-04

■ [東雅]東雅総論(3) 世の人いふ事あり。和語を解くには謎語《ナゾ》を解くが如し。其要訣を得ぬれば。解くべからざる者なしなどいふなり。凡天地の大なるより見ぬれぱ。我東方の如き。またこれ一方の地にてある也。されどその一方の内。また古今の間。五方…

2002-07-03

■ [東雅]東雅総論(2) 我東方の古言の如きは。幸に今先達の人の訓釈。なほ伝はれるものどもなきにあらず。 旧事紀 古事記 日本紀 姓氏録 古語拾遺 風土記等に。古語を釈せし見えたり。其余万葉集をはじめて。代々の歌詞を釈せし諸家の説。またすくなからず。…

2002-07-02

■ [東雅]東雅総論(1) 天下之言には古言あり今言あり。其古今之間に於て。又其方言あり。方言の中に亦各雅言あり俗言あり。古言とは太古より近古に至るまで。其世々の人のいひし所の語言なり。今言とは近世の人いふ所の語言なり。たゞ今五方の人の語言。各同…