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2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2012-03-31

■ 英語を話そうとして中国語(林唯一『爆下に描く』) 兵隊はみんな日本語の普及に苦心しているが、ラバウルは、我軍の占領前は英濠の治下にあったものだから、原住民の間には多少の英語が通じるので兵隊はそこを要領よく、「おーいボーイ、ウォーターだ」と…

2012-03-30

■ 日本語を使ひたがらぬ日本人(原口統太郎『支那人に接する心得』「下手な支那語は使ふな」) 当時自分は一の奇現象を発見した。戦敗の民支那人に向つて、各国兵が皆自国語を以て解つても解らなくても押通したのに、ひとり日本兵のみは、なるべく日本語を用…

2012-03-29

■ [語源説]「凶の字の唐音ヒョン」(新井白蛾「闇のあけぼの」) ○まじなひは、上古には大醫院の下屬に禁厭師有まじなひせし事也。故に醫書も古書にはまじなひを載たり。摩針灸藥外療にても治せざれば、まじなひ秡除までも行ふものを、醫門の下に置給ふは、…

2012-03-28

■ 跋(清水平一郎『佐賀県方言語典一班』) 此書は曩に教育會から頼まれて方言辭書を編輯し、愈脱稿する場合となって、語典も是非之に件はねばならぬ工合となつたから、大急ぎに急いで、そこ/\に取りまとめ、辭書の原稿と共に會に渡すこととした。辭書は其…

2012-03-27

■ 凡例(清水平一郎『佐賀県方言語典一班』) 凡例一、この書は嚮に出版した辭書の缺を補はむ爲に編述したのである。二、方言の假名遣は假名の發音通である。三、拗音、促音は右下に小字を以て記し、引音(長音)は右肩に線を引いておく。たとへば ひャ‾あ(hyā…

2012-03-26

■ 上田萬年書簡(清水平一郎『佐賀県方言語典一班』) 上田文學博士書翰拜啓愈御健勝に被爲渡、慶賀の至に御座候、兼て御約束申上置候方言語典拜讀の事、誠に/\遲延致し、何とも申譯無之、別封小包郵便にて御返却申上候間御落掌被下度候、大体誠に結構に出…

2012-03-25

■ 岡田良平序(清水平一郎『佐賀県方言語典一班』) 佐賀縣方言語典序國語の統一が國民知識の進歩と思想の一致とに缺くべからざる要件なることは今敢へて多言を要せず、而して國語の統一は必ず教育の力に待たざるべからず。從って國語の教授が國民教育の主要…

2012-03-24

■ [語釈]「下町」(永井龍男) 「それが、全然。つまりね、上の町に対する下町、暮らし向きで区別していらっしゃるんですの。(中略)ゴチャゴチャした処を下町。(中略)階級的な区別をつけていらっしゃるんで、へえこの頃はそんな風に、下町って言葉をつかう…

2012-03-23

■ [江戸語]江戸の自尊心から來る言葉の吟味(三田村鳶魚) 江戸の自尊心から來る言葉の吟味 そこで前にも云った通り、洒落本の「田舎芝居」が出て、それから後に田舎を舞臺とするものがいろ/\出て居ります。寛政二年に竹塚東子の書いた「田舎談義」は洒落…

2012-03-22

■ [役割語]全国共通の田舎言葉(桂文楽) 松の山のホテルではその地方の訛りもきき、参考にエハガキもみせてもらい、もっとも「松山鏡」の伝説は方々にあるんだそうですが、しかし完全な越後の言葉でしゃべると全国的には分らなくなってしまいます。 ですから…

2012-03-21

■ [方言意識史]江戸言葉だから探偵(大槻文彦) 戊辰の正月三日の伏見鳥羽の戰爭に會って死地に出合ひ、三月奧羽鎭撫使が船で下向するに付て、私も藩の蒸氣船で大阪から仙臺へ歸り、五月再び船で江戸へ出て潜伏し、藩の探偵を申付けられた。是れは私が江戸言葉…

2012-03-20

■ [方言意識史]田舎訛り 彼女の言葉は四五年前のように「それは」を S-rya と発音する田舎訛りを改めなかった。お鈴はこの田舎訛りにいつか彼女の心もちも或気安さを持ち出したのを感じた。 芥川龍之介「玄鶴山房」 ツイートする

2012-03-19

■ [漢語]漢語の氾濫 今日ローマ字の採用、国語の平易化等が問題となつて居る時、あまりに濫用されて居る漢語――特に最近十数年の間、漢語といふよりは漢字を組合はせただけのやうな生硬蕪雑な言葉が多く新造されて居るが――を追放する為にも、江戸時代語の研究…

2012-03-18

■ [方言意識史]「田舎言葉が初まった」 仲吉「あゝ、よしたがいゝ。其方が主のお為にも成るだらう」金八「アレ田舎言葉が初まった。気にもなるよ」 『春色雪の梅』二編上之巻*1 ツイートする *1:人情本刊行会 p.222

2012-03-17

■ [方言意識史]出雲の奥州訛り 奥州訛りといへば、シとス、フとヒ、イとエ、りとルなどの混雑して發音せらるゝことは、誰も知る所である。其の訛りが、東山北陸の二道を隔てた、この出雲一図の狹い範園内に飛火してをることも、亦た多少壮に知られてをる。安…

2012-03-16

■ 近代地下の儒は假名づかひは一向沙汰せぬやうにみゆるなり(夏山雑談・巻四) ○今世に行はるゝ伊呂波音の誤れること今世に行はるゝ伊呂波音と云書をみるに、伊爲の假名を同部に入れ、江恵乎於《えゑをお》を混雑し、此外一部の中多く誤りたり。三重韻も又是…

2012-03-15

■ [表記意識]粉身砕身しても知るべきものは仮名なり(夏山雑談・巻五) ○漢字に假名を付ること漢字に假名を付ることは、なづめることなれども、童蒙に便せんには然るべし。和語の文字には、假名付けざれば、よみがたきこともあり。漢音の假名は、音書を見てか…

2012-03-14

■ [方言意識史]西国辺土には古き詞遺れり(夏山雑談・巻五) ○西國邊土には古き詞遺れり 畿内及繁花の地は、萬にはやりごと多くて、詞、風俗も、次第にうつりかはるなり。西國邊中にも、薩摩國、肥後國球麻の郡などの人の言語は、上方の人のきゝては、耳をどろ…

2012-03-13

■ 「くむてふずよ」(夏山雑談・巻三) O平家物語に實盛がいひし詞平家物語に實盛がいひし詞に、「あっぱれおのれは日本一の剛のものとくむてうずよのふれとて、鞍の前輪におしつけて首かきゝってすてゝけり」とあり。此意は、我が如き日本一の兵と組と云ふか…

2012-03-12

■ 「てふ」(夏山雑談・巻三) ○戀すてふ、ころもほすてふ「戀すてふ」、「ころもほすてふ」などといふ歌の詞は、「戀すといふ」、「衣ほすと云ふ」とのことなり。「とい」の反し「ち」なれども、「ち」と「て」と二四のかな通じて「てふ」と云ふなり。「吉野…

2012-03-11

■ 平家物語は、古き詞ありて耳遠き(夏山雑談・巻三) ○平家物語平家物語は、古き詞ありて耳遠き様なれども、幾かへりみてもあかす。太平記は、文勢もはなやかに聞ゆれども数反みにくし。況それよりのちの軍物語は二反とは見られす。何にてもふるき文おもしろ…

2012-03-10

■ [語源説]てんとう(夏山雑談・巻三) ○淀川を登る船をてんとうと云ふ淀川を登る船に「てんとう」と云あり。淀登《てんとう》船と云ことなり。淀は徒練の切音殿なり。 日本随筆大成〈第2期 第20巻〉 作者: 日本随筆大成編輯部出版社/メーカー: 吉川弘文館発売…

2012-03-09

■ [語源説]めんどう(夏山雑談・巻三) ○めんどうなることゝいふ諺めんどうなることゝ云諺は、蓍《めど》と云ふことなるにや。田舎にて蓍をめんとうと云、筆をとるに三反して一爻をなし、十八反して卦をなすなり。其仕様の周備なれば、めんどうなることゝ云ふ…

2012-03-08

■ おぞ(夏山雑談・巻三) ○をぞ きたなきことを、古語に「をぞ」といひしとなり。高野山にをぞ川と云あり。不浄を流す川なり。 日本随筆大成〈第2期 第20巻〉 作者: 日本随筆大成編輯部出版社/メーカー: 吉川弘文館発売日: 1995/02メディア: 単行本この商品を…

2012-03-07

■ おしなべて(夏山雑談・巻三) ○おしなべて おしなべてと云詞は押並而なり。 日本随筆大成〈第2期 第20巻〉 作者: 日本随筆大成編輯部出版社/メーカー: 吉川弘文館発売日: 1995/02メディア: 単行本この商品を含むブログを見る ツイートする

2012-03-06

■ らっしもない(夏山雑談・巻三) ○らつしもない らつしもないと云詞は、臈次《らつし》もないと書べし。年は臈なり。次は次第なり。上臈は下座につき、下臈は上座につくことなどは臈次もないことなり。 日本随筆大成〈第2期 第20巻〉 作者: 日本随筆大成編輯…

2012-03-05

■ さいとりさし(夏山雑談・巻三) ○さいとり さいとりはさし鳥なり。俗にさいとりさしと云ふは重言なり。 日本随筆大成〈第2期 第20巻〉 作者: 日本随筆大成編輯部出版社/メーカー: 吉川弘文館発売日: 1995/02メディア: 単行本この商品を含むブログを見る ツ…

2012-03-04

■ 転語(夏山雑談・巻三) ○轉語葦を「よし」と云、梨子を「ありのみ」と云は轉語なり。「ないものはない」と云も轉語にて、「あるものはある」と云ことなり。 日本随筆大成〈第2期 第20巻〉 作者: 日本随筆大成編輯部出版社/メーカー: 吉川弘文館発売日: 1995…

2012-03-03

■ [語源説]たそがれ(夏山雑談・巻三) ○たそがれ日の暮にかゝるをたそがれとは、誰彼《たそかれ》と見わけがたき故なり。 日本随筆大成〈第2期 第20巻〉 作者: 日本随筆大成編輯部出版社/メーカー: 吉川弘文館発売日: 1995/02メディア: 単行本この商品を含む…

2012-03-02

■ 鶏をトトと呼ぶ(夏山雑談・巻三) ○鶏を喚ぶに登々と云ふ今俗に鶏を喚ぶに登々と云ふ。古へは都《つゝ》々といひけるにや。萬葉集に、都々と云詞を義訓して喚鶏《つつ》と書く。都々登々は五音通するなり。上古はすぺて諸鳥をよぷに都々《つゝ》といひける…