2012-03-13
■ 「くむてふずよ」(夏山雑談・巻三)
O平家物語に實盛がいひし詞
平家物語に實盛がいひし詞に、「あっぱれおのれは日本一の剛のものとくむてうずよのふれとて、鞍の前輪におしつけて首かきゝってすてゝけり」とあり。此意は、我が如き日本一の兵と組と云ふかとて組たりしことなり。「てふ」と云ことばは、今も越路に云ふとなり。又「のふれ」とはさねもりが生國越前の國のことばなり。今も越前にては詞のあとに「のれ」と云ふ詞ありとなり。俗歌に、
加賀の「がに」、越前「のれ」に、都の「ゑ」、東男の「のさ」のおかしき
と云こともあるなり。作者(信濃前司行長)の心をつけて書きたるをしらずして、實盛と云謡曲に、くんてうずよと云は謡のあやまりなり。「くむてうずよ」とうたふによりて、いろ/\の説をつけて云は皆僻ごとなり。「組《くむ》てふずよ」といへば能くきこへてすむことなり。心不v在v焉視而不v見。聴而不v聞云々。明らかなる目利き耳のありながら、見聞たることを誤るは、盲のものを見す。聾の聞かざるにはおとるべし。めくらのともし火を提《たづさ》へて夜行するは、目のあらきかなる人の行あたらざるためなりと云へり。されば萬のことに心を用ひざるはあやうかるべし。