2002-07-18
■ [東雅]東雅総論(17)
其略語の例に。略語とはことばを略していふ。ひゆるを氷《ヒ》といひ。しばしくらきを。しぐれといひ。文出《フミデ》を筆《フデ》といひ。墨研《スミスリ》を硯《スヾリ》といふの類也といふなり。古語に氷をばヒといひけり。またヒといふ言を開呼びては。ヒイといひけり。ヒユとはヒイといふ語の転ぜしなり。ヒユといふ語を略して。ヒといひしにはあらず。詳に氷の注にみえたり。また古語に天の陰りぬるを。シケといふ。またそれをシグレといひしは。シケといふ語を呼ぷ事の緩くして。ケといふ音の開きぬれば。クレとはなりしなり。これも雨の注に詳にみえたり。筆をフミデといひしは古語也。硯をスミスリといひしも。亦古語也。倭名鈔を併せみつべし。しかるを後にフミデをフデといひ。スミスリをスヾリといひし如きは。その呼ぷ事の急にして。フといひスといふ言に。ムといふ音を帯びて呼びしなり。ミといひムといふは転声なるによれるなり。これらは其語の略せしにはあらず。