国語史資料の連関

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2002-07-12

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今世に行はれぬる対馬伊呂波といふもの。また五音五位図などもいふにや。其字母凡五十字。唇舌牙歯喉の音を列ねて図となし。縦横相転じて相呼ぷ法などあるなり。此図はむかし呉国の比丘尼対馬国に至りて。国人にをしへたりし所なりといふなり。今世に伝ふる所のもの。原図のまゝにやあるらむ。又我東方の音をのみ。括尽しぬる所にもやあるらむ。思ふに其人彼本土をさりて。韓地を経てのち。彼島には来りぬらむ。しかるに今朝鮮音韻の学を聞くに。此国にはなき所の音どもあるなり。また我西方の人にあひて。彼方音を問ふに。其字母わづかに三十三字にして。天下の音として。うつすべからずといふものなく。彼人中土の文字多き事を論じて。支那人はよく記性強しとこそ見えたれ。夫等の字尽く記し得て。天下の言に通ぜむ。いと煩しき事なり。我方の如きはしからずなどいひけり。また我国の方音を聞て。唇舌牙歯喉の音。皆これ分暁ならず。それが中喉音のエといふ音の如き。我国の人呼ぶ所は。全くこれ喉音にはあらずなどいひけり。その呼ぷ所をきくに。いふ所の如き誠に然なり。彼国の字母を見るに。その三十三字の中我国の字母は。たゞ喉音の第一行の五字のみ其字ありて。其字の形も其音に象れり。其余の字形も亦猶かくの如くにして。並に皆我国の音のある所にあらず。誠に彼方の字を用ひて。我国の字母をしるさせしに。其字を結ぶ事。或は二合或は三合して。其文をなす。助紐反切の妙得ていふべからず。これは其方俗いにしヘより今に至て。此学をもて相尚びぬるが故に。其精妙こゝに至れりと見えけり。たゞ我国の音は。入声を聞くが如し。実には入声なるにはあらず。其声の結ぴて。いまだ開けざるなり。