2002-07-28
■ [東雅]東雅総論(27)
旧説に漢字の音を転じて。和訓となせしありといふ事あり。似たる事は似たれど。其義を尽せりとも思はれず。漢字の音を用ひて。其音の転じぬと見えし類は。彼音を転じて。此語となすに意ありしにはあらず。前にもしるせし事の如く。五方の言の中。我国ほど其声音少なきはあらず。漢字の音の如き。我国になき所のものは。其音自ら転ぜざることを得ず。たとへば呉をよびてクレといひ。漢を呼びてアヤといふが如き。呉《ヴー》の字。訛胡切角次濁音をもてよぶベけれど。夫等の音は。我国のなき所なれば。呼得る事のかなはずして。すなはち転じてクレとなりし也。また。漢《ハアヌ》の字。虞汗切羽次清音をもて呼ぶべけれど。これも我国になき音なりしかば。呼得る事かなはずして。すなはち転じてアナとなりアナ又転じてアヤとなりし也。漢をよびてアナといひ。またアヤといひし事。日本紀にみえたり。