国語史資料の連関

国語史グループにあったブログ

2002-07-14

[]東雅総論(13) 東雅総論(13) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 東雅総論(13) - 国語史資料の連関 東雅総論(13) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

日本紀に見えし下照姫の歌に。天《アメ》ナルヤといふぺきをアモナルヤといひ。ウナ懸《カケ》ルといふべきをウナカセルといひしが如き。其方言によれりしなるベし。されば此歌は夷曲《ヒナプリ》也とはしるされたる也。此余この語は其国の俗いふ所なりとしるされしも見え。また風土記万葉集等にも。諸国の方言の見えし少なからず。猶今も其国の俗は。いづれの音をいひ得ず。この国の語は。いづれの音相わかれずなどは。世の人も相謂ふなり。たとへば太古の語には。善をぱヒといひけり。ヒといふ言葉。転じてフともいか。亦転じてヨといひけり。そのヨといふ言また詞ノ助を得て。ヨシといひしに。其詞助亦転じて今の如きは。中土東西南北の方言によりて。ヨシといひヨキといひ。ヨカといひ。ヨクといひ。またヨフなどもいふ。其音の軽重清濁。呼ぷ事の開合緩急。また各相わかれたり。又くワといふ音をよびてカといひ。セといふ音をよびてスエといひ。テといふ音をチエと呼ぬる類は。上にいふ所の其音をよび得ざれぱ。他音にゆきしなり。これら転じていふに。意《コヽロ》あるにはあらねども。その自ら転ぜしかくの如し。凡古今の間。五方雅俗の言の同じからぬ。またかくの如し。我書に此語は某語の転ぜし也といひ。此語は某音を呼ぶ事の緩なる也。急なる也。開きし也。合ひし也など註せし類は。皆是此条にしるせし事の如くなるが故なり。