2015-01-02 2015-01-02 ■ [方言意識史]「近頃、大阪言葉も、流行つてゐるのね」(直木三十五「殿堂を碎く」) 「男の言葉を、使ふこと、流行つて?」 會話は、轉回した。微笑して、兩手を擴げて來た愛人が、突然に、蹠《かゝと》をめぐらせた。「時々、使ふわ」と、答へて、振向くのを待つた。「妾、使ひすぎるかしら」 佳子は、その答への初めへ、姉さんとつけて見たかつたが、云へなかつた。それで「よく、似合ふわ」 と、だけ云つた。「さう?──近頃、大阪言葉も、流行つてゐるのね」「さう?──どんな」 佳子は、甘く、低く、愛撫を望む小犬のやうに、擦り寄つた。「好きやわ、好きやし、大好きやわ──」 直木三十五「殿堂を碎く」「戀愛切斷面」『直木三十五全集』第十巻 (改造社 1933)p.43 ツイートする