2013-01-06
■ 日本人の支那語(原口統太郎『支那人に接する心得』)
同文同種と云ふことは便利でもあるが、これが却つて障碍になつてゐる場合がある。今日支那と戦はなければならぬやうになつたのも、或意味から言ふと、この同文同種が崇つてゐるとも言へる。兄弟垣に閲ぐ、つまり兄弟同志が余りに勝手気侭が過ぎたからとも言へる。同文同種と言ふが、どうも日本人には支那語の上手な者は少い。却つて西洋人の中に日本人以上に支那語を支那人そつくりに話す逹者な者が相当見受けられる。
元来、日本人は外国語は得意でないが、特に支那語は不得意であらう。これは文字が同じいから、発音と調子が肝腎であるべき言葉を、文字を眼の方から先きに支那語を覚えてしまつて、その発音と調子を疎かにすると云ふ風があるからであらう。であるから、支那語を眼と頭で知つてゐる日本人は多いが、支那語を上手に語れる日本人は意外に少ない。まさしく之は文字を知つてゐる眼から来る弊害と言へる。その意味で、日本人に取つては支那語は入り易くて達し難い。
それ故、日本人の支那語は、調子が日本語の調子で、支那人に成う切つたやうな支那語の調子がない。支那語を稽古するのには、先づ調子が第一であるから、眼で支那語を覚えずして、歌の調子でも取るやうに、支那人の語調をよく真似てそれを繰返し/\練習すべきである。http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1437297/20