2011-03-24
■ 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』おほむね上(8)
又曰、挿頭・脚結・みなそのすぢありて、名にもかよひ(註一)、末・靡・にもかよふ(二)ことあり。しらずはあるべからず。この故に、裝の引・靡・をうくべきあゆひは、繼あゆひにても、末を承べからず。裝の末を承べきあゆひは、脚結の靡をうくべからず。たとへば、那利身の[なり](三)は、繼あゆひにても、[つなり]、、[とすなり]などよむべく、有倫の[なり](四)は、[つるなり]、[とするなり]とよむべきことわりなり。
私云、挿頭・脚結・のかよひは、次の卷にくはし。此抄のつまがきに(五)「名をうく」又「引・靡・をうく」などかきたるをば、此心をえて見べし(六)。
師曰、かざし・あゆひ・よそひ・みな心似かよひたる詞あり。よくみしりて、かよふうちにかよはぬところあるをしるべし。もとよりひとつ詞ならずして似たるは、たとへば火とわきゆ(沸湯)とのごとし。火してものをのし(伸)、湯してものをのすときは、そのしるし(七)おほくかはらず、ものをあたたむるもおなじ。火してものをやき、ゆ(湯)してものをにるは、いささか似てたがへり。火してものをてらせども、湯しててらすべからず。湯をばのめども、火をばのむべからず。詞もかよふところあるをみて、かよはぬところなしと心えば湯をともしび(燈)にせんとするひがごといできぬべし。
又曰、ふたつのあゆひに、ひとつの里言をあつるは、もとより心かよへばなり。[めやも]・[めかも]・をふたつながら、[ウモノカサテモ]とあて、[めや]・[ましや]・をともに[ウモノカ]とあてたるたぐひ也。又すこしかろく、おもきけぢめはあれど、里言に、わかちあへねばかりにあてたるものあり。可倫(八)・介隊(九)・をみな[サウニ]とあてたる類也。其條々にいたりて、いささかことわりさだむるを見べし。又可倫(八)にあてたる[サウナ]・[らし]にあてたる[サウナ]・はおなじ里言ながらうけざまによりてまぎるべくもあらず。
註(一)例へば、程といふあゆひは、名詞と同樣の性質である。故に名詞同樣に取扱はねばならない。
(二) たり・たる・などは動詞の末(終止形)・靡(連體形)・と同樣の性質である。故に動詞の終止、又は連體同樣に取扱はねばならない。
(三)十二身の中の[なり]は動詞の終止形の下につくものであるから、他の脚結(助動詞)の下に重る場合にも、動詞の時と同樣に、終止の下につけなくてはならない。
(四) 六倫の中のなり、即ち連體につくもの。
(五) あゆひ即ち助詞・助動詞・の各條の次にある説明をさす。
(六) [べし]が見・似・などにつく時は、[見るべし]・[似るべし]・の外に[見べし]・[似べし]・ともいふが成章は送假名を省いたのであらう。
(七) 効果。
(八)六倫の一、べしの類の助動詞。
(九) 八隊の一、げの類の接尾語。