2011-03-27
■ 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』おほむね下(1)
師曰、裝の事は其抄(註一)あれども、あゆひの例は、よそひによりて(二)さだむべきを、此抄をよまむ人、裝にくらくしては、心えがたかるべければ、いささかそのおもぶきばかりをここにはいふなり。凡、裝には二むねあり、事(三)と[さま](四)と也。こまかにいへば、事に二むねあり、事(五)と[ありな](六)と也。状に四むねあり、しざま(七)・しきざま(八)・ありさま(九)・かへしざま(一〇)・也。裝二むねともいひ、六むねともいふは此よし也。六むねをおしこめて裝といふ。むねごとに本・末・引靡・きしかた・めのまへ・あらまし・靡伏・ふし目・たちもと(一一)・のすぢ/\あることは、ここにいひつくしがたし。左にいだせるかたがき(三)を見てかつ/゛\心うべし。
註 (一) 裝抄、帥ち動詞・形容詞・についての著書は今傳らない。
(四) 有樣を表す形容詞。
(五) 狹義の動詞。
(六) 孔、又は有名とかく。良變の動詞を指す。他の動詞が動作を表すのに、此は存在を表すので別にしたのであらう。ありなのなの意不明。
(七) 芝とかく。[し]・[き]・と變化する久活形容詞。大槻博士は之を志幾活といふ。
(八) 鋪とかく。[し]・[しき]と變化する。志久活形容詞。大槻博士の志志幾活に當る。
(九) 在とかく。[遥なり]・[稀なり]・などの類、・三矢博士のなり活に當る。
(一〇) 次項に末(終止)・靡(連體)。のない者といつて居るが、如何なる者を指すか明かでない。成章は、かへしといふ語を、打消の意に用ゐて居る。
(一一)本 語根。末……終止形。 引靡……連體形。 きしかた(往)……連用形。 めのまへ(目)……已然形又は命令形。あらまし(來〉……將然形。 靡伏……れの附く已然形。 伏目……形容詞の[け]。立本……形容詞のか。
(一二) 型書の意。表を指す。