2011-03-25
■ 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』おほむね上(9)
又曰、うちあひ(註一)は、此抄の條ごとにいふがごとく、そのあゆひごとにさだまれるのり(法)あるうちに、なびきづめ(二)・かくす打あひ(三)・のふたつありて、べち(別)によむべきやうあり。なびきづめとは、凡、裝。あゆひ・のなびきは、かたらず曾家(四)もしはうたがひのかざし・あゆひ・などにうちあふべきを、さもなくてよみつめたるをいふ。これは心をふくめてながめすつるなり(五)。靡(六)の下に、「[事よ]・[事かな]・あるひは[ものを]などくはへて心うべし。この中に[らん]・[けん]・[なむ]・などのあゆひを、うちあはずしてよみつむるを、[かたひゞき](七)ともいふ。おなじ心えなり。かたひゞきの事は、將倫(八)にくはしくさだむ。[かくすうちあひ]とは、曾家(四)は下にうちあふべきやうさだまれるを、さだかによみつめずして(九)よみもて行をいふ。これは、古歌にかさぬる詞(一〇)、又はよせそへ(一一)たる詞にてかくすなり。
私云、よみつめ・うちあひ・等の事、口づからつたへらるることおほし。今はあゆひのさだめにつきてとかれたることばばかりをしるすなり。
註 (一) 係結。
(二) 連體形の結の意。ぞや疑のかゝりがなくて、連體形で結んだもの。下に説明してある。
(三) その係があつても其を結ぱないもの。此も下に説朋してある。
(四) 十九家の一、その類の助詞。
(五)嘆息して語をそのまゝにする。
(六)連體形。
(七)なびき詰の一種。疑の係なくして[らん]・[けん]・[なん]・などで結んだ者。
(八) 六倫の一、むの類の助動詞。
(九) 結ぱないで。
(一〇) 引用して意を重ねる。
(一一) 言掛ける。