2011-04-07
■ 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』屬 二「疑屬」(3)
何か何
二例(註一)○第一おもふ中のか(二)といふ。
上何は名・裝の往・頭・脚・也、下何は裝の引靡・脚・樣々也。(三)
里[か]をまはして、下何の下に[カトオモフ]とつくべし。
まてといひし秋もなかばになりぬるをたのめ[か](口略)置し〔タカト思〕露はいかにぞ。 後拾
いつのまにもみぢしぬらん山ざくらきのふ[か](口略)花のちるを惜みし〔タカト思〕。 新古
おく山のすがのねしのぎふる雪のけ(消)ぬと[か](口略)いは[ん]〔ウカト思〕戀のしげきに。
あすか川ゆきゝの岡の秋はぎはけふふる雨にちり[か](ロ略)過なむ〔テシマハウカト思〕。 新勅
定なきよにふるさとを行水のきのふのふちもあす[か](口略)かはらん〔ウカト思〕。 同
○第二うたがふ中のか(四)といふ。
上何は疑の頭也(五)、名・脚・裝の往・等をうけたりとも、其上に、あるひは遠く、あるひは近く疑の頭あるにあたりて[か]とよむ也。下何は名・裝の引靡・脚・等也。(六)
是、[中のか]の正例なり。[おもふ中のか]は百歌に一二よりもまれなり。疑のかざしの事、大旨にくはしくいだせるを見べし。但其中に[などか]・[いかゞ]・[たれか]・[いつか]・[いかでか]・などよむは、たゞちにかもじをうけたれば、下に詞をへだてゝも[中のか]置べからぬこと(七)いふもさら也、里[か]をまはして、下何の下に[ゾ]とつくべし。但名をうけたるは[か]を[ガ]になして、下に[ゾ]をつくべし。
小船さしわたのはらからしるべせよいづれ[か]〔ガ〕あまの玉もかる浦〔ゾ〕。 後拾
忘草何を[か](口略)たね〔ゾ〕とおもひしはつれなき人のこゝろ也けり。
たがみそぎゆふつけどり[か]〔ガ〕から衣たつたの山におりはへてなく〔ゾ〕。
いくばくの田をつくればか(ロ略)ほとゝぎすしでの田長を朝な/\よぶ〔ゾ〕。
花よりも人こそあだになりにけれいづれをさきにごひんとか(ロ略)みし〔タゾ〕。
ちる花を何か(口略)うらみむ〔ウゾ〕世申にわが身もともにあらむものかは。
たがためのにしきなればか(ロ略)秋ぎりのさほの山べを立かくすらむ〔デアロゾ〕。
夏むしを何か(ロ略)いひけむ〔タコトデアロゾ〕心から我もおもひにもえぬべらなり。
上に[て]・[ば]・[に]・などをうけ、下に[ける]〔コトヂヤゾ〕・[つる]〔タノヂヤゾ〕・[まし]〔ウモノゾ〕・[けん]〔タコトデアロゾ〕・[らん]〔デアロゾ〕・[ざらん]〔ズニヰヨウゾ〕。[つらん]〔タノデアロゾ〕・[ずしもあらん]〔アナガチ何ズニモヰヨウゾ〕・[かるらん]〔ウアルデアロゾ〕・など打合(八)、見本抄。
此[か]に[らし]をうちあふ事本抄さしおきの例(九)なり。
凡、上に疑のかざしをうけて下にうちあはせたる詞は、中に[か]もじなくとも、心えて末に[ゾ]をくはへてみよ、[か]もじあるもなきも、心かはらねばなり。
「かたみも我は何せんに」などは、[ゾ]をはづして心得べし、いきほひしかり。
但中におく(一〇)は必[か]もじなるべし。忘れても[や]もじを置べからず。[伏や](一一)は別の事也、下にくはし。その外すつる例ども本抄におほし。
註
(一) 二種の意、 (二)問ふのではなく、心に疑ふ意の、語の中途に來る[か]。
(三) [か]の所屬は、名詞・動詞形容詞の連用・副詞。助動詞の連用・であつて、之を受けるのは、動詞。形容詞・の連體、又助動詞の連體その外種々である。
(四) 疑ひ問ふ意の、語の中途に來る[か]。
(六) 受ける方は第一種の揚合と同様、名詞。動詞形容詞の連體・助動詞・等である。
(七)「いか[ゞ]思ふに[か]あらむ」などは[か]ゞ重複して居るから誤。
(八) 受ける、又は結ぶ。
(九) 變例。
(一〇) 前の證歌、[たがための]とあれば、其の結は連體であるが、中途には、決して[や]を置いてはならない。
(一一) え列の下に用ゐる[や]の意。「あはれいくよの宿なれや」「春日忘るゝものなれや」の類、何やの條に詳し。