2011-04-06
■ 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』屬 二「疑屬」(2)
何か 何は名・裝の引靡・脚・也。(註一)
里言同、但、引歴をうけたるをぱ、心得て[ノカ]とあつべし。
秋の野の草のたもとか(ロ同)花すゝきほにいでゝまねく柚とみゆらん。
わがうへに露ぞおくなるあまの河とわたるふねのかいのしづくか(ロ同)。
こりずまのうらのしら浪たちいでゝみるほどもなくかへるばかりか(口同)。後
心ざしふかくそめてしをりければきえあへぬ雪の花とみゆるか〔ノカ〕。
秋風の吹上にたてるしら菊は花かあらぬか波のよするか〔ノカ〕。
[てか]〔テノコトカ〕・[らんか]〔デアラウカト思〕・[とか]〔トヤラ、トノコトカ〕・[かと](ロ同)・かと(口同)ぞ〔コチヤ〕・かとすれば〔トスルカセヌニ〕・見本抄。
世に哉[のか](二)といふことあり。凡、咏と疑はひとつなる事おほし。たとへば、[かも]と[かな]心おほかたかよへども、此抄に二屬をたてゝ[かな]を咏とし[かも]を疑とするは、その詞をよむにさきとすべき心(三)をいふなり、みる人なづむべからず。[何か]といふ詞は疑をさきとすれども、上に[も]をうけたるは又咏をさきとする故に、咏屬にいる。まれには、[も]をうけずしてよめるに[ながめ]をむねとせりとみゆるもあれど、今はおほきにつきていふなり。
咏の[か]・疑の[か]・の事、咏屬[何も][何か]の下にさだむるをも、あはせみて心うべし。
何かに(四) 何前に同じ。
必上にあつらへ(五)・願・等の心をよめり。[何ドモスルヤウニ]と里す。「さ(然)したらば、もしさる事もあらうずるほどに」といふ心也。
さくら花散かひくもれおいらくのこむといふなるみちまがふかに〔ヒドモスルヤウニ〕。
なくなみだ雨とふらなむわたり川水まさりなばかへりくるかに〔キドモスルヤウニ〕。
註
(一) [か]の所屬は名詞・動詞形容詞の連體・助動詞の連體。
(二) [かな]の意の[か]即ち詠嘆の[か]。
(三) 主な意義。
(四) 此の種類の[かに]を成章は清音と見て居るが、之を濁吾と見て[がね]と同義に見るのが通説である。
(五) 誂即ち一種の命令、證歌の[ちりかひもれ]・[ふらなむ]・などは誂。