2011-04-10
■ 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』屬 二「疑屬」(6)
何かや 何は裝の靡・脚・等也。(註一)
[カドウダイノ]と里す。但例おほくみえす、又[とかや]とよめるをば、心えて[トヤラヂヤノ]・[トイフゾイノ]・とも里すべし。
はりはこのふたつのそでにさしつれどひとつもみえす落にけるかや〔テシマウタカドウゾイノ〕。 散木
何とかや〔トヤラヂヤノ〕くきのすがたはおもほえてあやしく花の名こそ忘るれ。 拾
又近昔に[かな]にかよふ[かや]あり、本抄さしおきとす。(二)
何や 何は頭・脚・裝の末.也。(三)
里[カ]といふ、前の何[カ]と里言同じくして心かはれること、はしがきにくはし。但里言のカ靡をうけていふ詞なる故に心えて上をなびかして(29)うくべし。
かずならぬわがみ山べのほとゝぎす木葉がくれのこゑはきこゆや〔ルカ〕。 後
すゞしや〔イカ〕と草むらごとにたちよればあつさぞまさるとこ夏のはな。 六帖
又[かさねや](五)。[火水のや](六)・などあり、みな同じ心得なり。
くや〔ルカ〕/\とまつ夕ぐれと今はとてかへるあしたといづれまされり。 後
夕さればおもひそしげきまつ人のこんや〔ウカ〕こじや〔マイカ〕のさだめなければ。 同
[やと]〔カト〕・[やとて]〔カト思テ〕・[つや]〔タノカ〕・[んや]〔ウカ〕。[からんや]〔ウアラウカ〕・[とや]〔ト思フカ〕・ずや〔ヌカ〕・ぬや〔テシマフカ〕・かりけりや〔ウアツタコトカ〕・めやも〔ウモノカサテモ〕・等見本抄。
[やのやは]・[やはのや]・あり(七)、前にいふ[かのかは]・[かはのか]・のごとし。中にも[めや]・[ましや]とよむ時は、いづれも[やはのや]と心得べし、脚のいきほひしかり。又[おもひきや]などよむもみな[やはのや]なり。
註 (一) 連體形。
(二) 成章の別著の、今は傳はらない本抄には、變例としてある。
(三) 所屬は副詞・助詞・形容詞動詞の終止・である。此の條は結となる[や]であつて、名詞の下につく[や]は何や何の條。
(四) 上を連體に變化させて。
(五) [くやくや]の類。
(六) [こんやこじや]の類。正反對の詞をさす。
(七) やの意(疑問)のやは・やはの意(反語)のや。