1187-03-12 1187-03-12 ■ 唐物語・望夫石 昔、男女あひ住みけり。年などもさかりにて萬行く末のことまで淺からず契りつゝありふるに、この男、思の外にはかなくなりにけり。その後涙に沈みてあるにもあらす覺えけるを、我もわれもとねもごろに挑みいふ人ありけれどいかにも許さゞりけり。これを聞くにつけてもなき影をのみ心にかけつゝ、時のまも忘るゝひまなくて終に命を失ひてけり。そのかばねは石になりてけり。 「ことわりや契りし事のかたければ遂には石となりにけるかな」。此の石をばその里の人々望夫石とぞいひける。一筋に思ひ取りけむ心のありがたさもこの世の人には似ざりけり。 国文大観ツイートする