1187-03-13 1187-03-13 ■ 唐物語・娥皇女瑛 むかし尭と申す帝おはしましけり。御まつりごとより始めて萬めでたき御代のためしには、まづこの御事をのみこそ申すめれ。娥皇女瑛と聞え給ふ二人の后さぶらひ給ひけり。御心ざしいづれまさり給へりとけぢめ見えず。唯紅紫などのやうに淺からぬ御事にてなむ侍りける。かくて多くの年月をなむ保たせ給ひけれど、この世は限ある所なれば、みかど湘浦といふ所にてはかなくならせ給ひぬ。その後二人の后紅の涙を流し給ひてふるきことをおぼせりければ、まがきの呉竹も御涙にそまりてまだらになりにけり。 「君こふる涙のいろのふかきには竹もなみだにそむとこそ聞け」。昔の人の、思ひそめつる事は淺からぬにや。 国文大観ツイートする