国語史資料の連関

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1187-03-11

唐物語・弄玉 唐物語・弄玉 - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 唐物語・弄玉 - 国語史資料の連関 唐物語・弄玉 - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

むかし、秦の穆公の娘に弄玉と申す人ありけり。秋の月のさやけく隈なきに心をすましてまたく世の事にほだされず。また簫史といふ樂人あり。秋の月清くすさまじき曙に簫をふく聲哀に悲しきこと限なく、弄玉それにや心を移しけむ、進みてあひたまひにけり。世の人あさましき事に思ひそしりけれどいかにも苦しと覺えず。唯諸共にうてなの上にて簫を吹き月をのみ眺め給ふ事二心なし。鳳凰といふ鳥飛び來りてなむこれを聞きける。月やうやく西に傾ぶきて山の端近くなるほどに、心やいさぎよかりけむ、この鳥、簫史、弄玉二人の人を具してむなしきそらに飛びあがりぬ。

 「たぐひなく月にこゝろをすましつゝ雲ゐにいりし人もありけり」。むなしき空に立ち昇るばかり心のすみけむもためし少なくこそ。又簫の聲にめでゝ、人のあざけりを忘れ給ひけむも、好ける御心のほどおし量られていといみじ。

国文大観