国語史資料の連関

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2011-04-12

松尾捨治郎校註『あゆひ抄』屬 二「疑屬」(8) 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』屬 二「疑屬」(8) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』屬 二「疑屬」(8) - 国語史資料の連関 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』屬 二「疑屬」(8) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント


○第二[さゝぬ中のや](註一)といふ。

  上何は名・頭・脚・装の引靡・往・等也(二)。下何は名・裝の引靡・脚・さま/゛\也。此うちあひ尤おほし。

 里いづれも[や]をまはして、下何に[カ]をつけて心得べし。さて上何につきて五様(三)あるべし

 一、名、又名にかよふ脚(助)・頭(副)・をうけたるをば[や]を[ガ]又は[ハ]になして心得べし。二、名に[に]・[を]・[は]・などいふことをつくべきを、たゞちに[や]とうけたる歌をば、それ/゛\にニ・ヲ・ハ・などつけて心得べし。

これら皆里言のたよりよきをはかりてつくる也。歌にはもとより[に]・[を]・などはぶきてよむべきすぢなる詞なればかくよめり。さもあらぬ詞をつゞめてよむべからず。くはしくは[乎家](四)にいたりてつたへられたることあり。いせのうみに「なのりそやつまん貝やひろはん玉やひろはん」とあるも(五)此例也。

 三、裝をうけたる(六)をば[ノガ]又[ノハ]などそれ/゛\にうけて里すべし。四、たゞの頭・脚・をうけたるをば、[や]を里せずして、下何の下にめぐらして心得べし。又事の往(七)をうけたるをば頭・脚・をうけたるに同じく[や]を里せず。

但[何やする]・[何やしぬる]・など(八)[爲身]を下にうけたるをば、心えて[や]を[ナドモ]と里すべし。

 是はもとより[何もやする]・[何もやしぬる]・とよむべきを略せる詞なれば、此里言も毛家に[もやする]・[もやしぬる]・の詞にあてたると同じ。心もまたいさゝかもかはる事なし。[爲身]は心えやけすれど、里言あたりにくき詞なれば、例をはなれて釋するなり。

此五樣(三)かう(斯)かず/゛\にさだめいはずとも、すこしあゆひをみしらむ人は、たやすくかよはして心えつべけれど、むげにしらざらむ人のためにとてさだめおく也。

 註(一)指定の意のない、語の中途に來る[や]。第一のは下に[ぞ]を入れられるが此は下に[か]を入れられるといふのであらうが、私見では彼は感・嘆のや此は疑問のやと見たい。  

(二) 一所屬は名詞副詞助詞形容詞動詞連體又は連用・である。  

(三) 第二例の中の五小別。  

(四) [を]の種類の助詞。卷二乎家の條を見よ。   

(五) 催馬樂伊勢の海の曲に、「伊勢の海の/\清き渚の潮間になのりそや摘まむ、貝やひろほむ、玉やひろはむ」とあるのも。  

(六)我身よりたつや淺間の煙なるらむ等。  

(七)動詞連用の下に附いたもの、住みやならへる等。  

(八)聲はして・香ぞする・など獨立性の少い佐行變格。卷五爲身の部を見よ。