国語史資料の連関

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2002-01-18

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古書に用來れる字 今の韻書をもて正しかたきもの多かり 杜をもりとする日本紀新撰字鏡に見えたり 萬葉集に神社をもりとよめり もりは神のます所をいひて社地には必す杜の樹をうゝる事神代紀に見えたり 社をこそとするも日本紀に出たり 萬葉集に乞ノ字をこそとよめり 社に詣てゝ乞祈るの意なるべし 鋺は秤鋺也 さるを椀と同く用ゐてまりとし 桙ハ木挺也さるを鉾と回く用ゐてほことし 縵を鬘と同しくかつらとするの例もまた既に日本紀に出たり 〓[土完]を椀に通用せし事 江次第?東鑑に見えて字義大に異れり 椹字日本紀にむく舊事紀にくれ風土記には臣木《オミノキ》とし姓氏にてハみづきととなへ通俗にはさはらぎとよめれと字書に求めて其義を得す 梶をかぢとする舊事紀に書たり 續字彙?に梶ハ樹杪也とあり 日本紀に挾杪者をかぢとりとよめるも義同し 西土にても梢人梢工の稱あり續日本紀に〓[木上下]字かせとよみ古語拾遺にかせぎとよめり 五音類聚?に〓[才上下]は俗ノ弄ノ字と見えたり 椋をくらとよむは舊事紀姓氏録?なとに見えたり 京をくらとするの義によれるにや 偲をしのぶとするは萬葉集に見えたり 人を思ふの二合字なるへし 〓[木若]をしもとゝする延喜式に見えたり 日本紀に弱木をしもとゝよめり 若音弱の義をもて二合せる也 萬葉集にみづかきを〓[木若]垣と書るも弱木《ワカキ》をみづ木といふに据なるへし 澪をみをとよみ〓[女夫]をせとよみ 樋をひとよみ 椿をつばきとよむもまた式に見えたり 槇をまきとよみ 〓[木連]をえつりとよみ〓[春鳥]をうぐひすとよみ 〓[虫鳥]をてらつゝきとよみ嫌をうハなりとよみ〓[女成]をよめとよむハ新撰字鏡に見え 鮎をあゆとよみ 鰹をかつをとよむは和名鈔に見えたり 是皆二合の意 字書の正義にあらす 俵をたわらとよむは類聚國史に一俵二升以上と見えたり 今も蝦夷ノ島松前には三升四升の俵を用うといへり 類書纂要?に分俵俵散なとゝ見えたり うちまきの義をもて米嚢の稱とする也 倩をつら/\とするハ三代實録に竊案文辭倩思義理と見えたり 疑らくは猜ノ字の誤なるへし 字書に猜は疑也とも測也とも見えたり 匂をにほふとよめるは藤ノ敦光の詩に當戸濃匂含霜媚といへり にほふといへる詞に音韻の義ありて芬香の謂のみにあらす よて韵の省文より謬れる成へし 又韻の古文均にして匂ハ均也と字書に見えたり 或ハ正字通に〓[白七]本作v〓[白ム]即古ノ香ノ字と見えたれは此字の草變なるへしともいへり 坪をつぼとよめるハ和名鈔東鑑朝野群載等に見えたり 字書に平也といへるによれる成へし 槫をくれとするは延喜式に見えたり字書に楚人謂圓爲槫と見ゆ 此義によれる也 又〓[木薄]に作る 字書に壁柱也と見えたり 三代實録に歩板簀ノ子椙ノ槫と書たり 靹はともはんだの一名ありて一物也 國俗の創造れる所といへと古事記日本紀なとに出ぬれは古き韻書に本つかれたるにや 續字彙補?に見えたれとも其義をかきたり 〓[衣畢]は日本紀にまへもと和名鈔に本朝式?を引てちハやとよみ未詳といへり 今韻書を考ふるに此字を収めす 襷は本朝式にたすきとよめり 和名鈔に續齊諧記?を引て音義未詳といへり 此字もまた字書に収めす 椙をすぎとよむは真名伊勢物語に見ゆ 榲の字の誤なるへし 榲は日本紀に見えたり 鬮をみくしとよみ霊籤のことゝするは東鑑に見えたり 字體によりて意を得てせる成へし 〓[糸爭]をことゝよむも東鑑に見ゆ 字書に急v絃之聲といへり 事ノ字に代て用るハ心得かたし 縡の誤冩にや 世に博雅ノ三位箏を改めて〓[糸爭]に作るといへるもまた疑へし 〓[才茂]ノ字愚昧記江次第?等に見えて一ヒ結之後〓[才茂]2合之1其末只垂也と見えたれはよりとかひねりとかよむへし されと字書に見えす 或は機の誤冩にや 〓は顔氏家訓に獵化爲〓と見ゆ されは國史記録に獵と通用す 朝野群載陰陽道の部に〓[竹拾]十七練とも〓漆棟とも見ゆ〓ノ字字書に収めす 其よみも知へからす 芝をしばとするは萬葉集に見ゆ 莱或は〓[艸今]の草書を謬るにや 俣をまたと訊するハ古事記にみえたり 股と通する故をしらず 刀をとらとよめるは文徳實録の支干の寅ノ字多くかく書り 東鑑にも肥前ノ國三根西郷内|刀《とら》延名と見ゆ 或は〓に作れり ともに何の據ある事をしらす 世俗妄に義を取謬てを用るもの何の限かあらん 今その記傳に出て著しきものを舉て辨するのみ