国語史資料の連関

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2004-06-06

[]石井研堂明治事物起原』地理部「外国地名の当て字」 石井研堂『明治事物起原』地理部「外国地名の当て字」 - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 石井研堂『明治事物起原』地理部「外国地名の当て字」 - 国語史資料の連関 石井研堂『明治事物起原』地理部「外国地名の当て字」 - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

 台湾の古名、『唐土歴代沿革図』に「塔葛沙古《タカサゴ》」、『台湾鄭氏記事』に「塔加沙古」とあり。本邦の文書に「高砂」と記す。外国地名に和訓字を当てるは、邦人に読みやすく、かつ字数を節約し得る利益あり。

 万延元年作、桂園森田行の『航米雑詩』に、

  軋鬚碧眼|花間《パナマ》宰、脱v帽屈v腰搓v手待、鉄路四十又七里、分明画破東西海。

その註に、「花間は即ち巴納麻《パナマ》、邦音ニ因テ之ヲ填メ、以テ声調ヲ叶ハシム」とあり、こ

れ、自注のとほり、詩の平仄の関係上、江戸を江都と書きし類に過ぎざるも、洋音訓訳の魁なり。

 福沢諭吉は、世界の地名を記すに、和訓字をもつてするを便とし、その著『世界国尽』の凡例中に、「西洋の地名・人名等は、勉めて日本人に分り易きを用ふるやうにせり」とて、満落加《マラツカ》・荒火屋《アラビヤ》など出し、古来の翻訳者の、唐音の漢訳字を襲用する旧習を踏まず。これが、和訓音訳の中興開山といふべし。

 明治八年新刊永峰秀樹訳『アラビヤンナイト』の題を、『暴夜物語』とせしも、その影響なるべし。