2002-03-09
■ [和訓栞]和訓栞大綱(56)
○同字同義にても唱へさまにて其事物を異にするあり 鈴を音にりんといへば打べく訓にてすゞといへば振べし。干物を音に「かんぷつ」といヘば精進の名訓にて「ひもの」といヘば魚類の稱也。木綿も音に呼べば布の名、訓によべばわた也。御門も音にては上下通稱すべく、訓にてみかどゝ呼べばおそれあり。言上を「ごんじゃう」ととなふれば重く、「まうしあぐる」とよめば軽し。奏も啓も皆まうすとよめれど音によぶと訓によぶとは大に曾卑の別ち有。おまへ御前も亦同し。無念を「むねん」とよぷと「ぷねん」とよふと漢音呉音にて其意異れり。書物を音に呼と訓にかきものといふと大小の別あり。石灰訓によへは字のごとくにして唐音にて「しつくい」と呼ば其事を異にす。又女官を「によくわん」ともよび「にようくわん」ともよび、御皇所を「みだいところ」とも「おだいところ」とも 納所を「なつしよ」とも「なふそ」とも 直綴を「ぢきとつともぢつとくとも 頭巾をづきんともときんとも 脚布をきやつふともきやふともよふか如き 各其となへ異なれハ其物も亦異也