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2009-01-07

山田孝雄『平安朝文法史』第二章「語論」第四節「語構成の大要」二「外来語山田孝雄『平安朝文法史』第二章「語論」第四節「語構成の大要」二「外来語」 - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 山田孝雄『平安朝文法史』第二章「語論」第四節「語構成の大要」二「外来語」 - 国語史資料の連関 山田孝雄『平安朝文法史』第二章「語論」第四節「語構成の大要」二「外来語」 - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

二 外來語

 この期に入りて使用せらるゝ外来語はその數甚多く、而、殆、国語化したる趣あり。其の外来語と稱すべきものは殆、悉、漢語なりとす。これは漢文學、及、佛教によりて傳へられたるものなり。この期の外来語を完全に研究せむことはこゝに企つべきものにあらず。唯、いかなる状態なりしかを略説せむとす。

 體言として使用せられたる漢語の一例。

たゞいまの琵琶の一は頭少將こそはべめれ。              (宇、初秋)

琴ひかせたまふことなん一の才にてつぎにはよこぶえ琵琶箏のことをなん(源、繪合)

一日の出家の功徳ははかりなきものなれば、             (源、夢浮橋)

衛門少納言、一佛浄土にうまれたるにやあらむとおぼゆ。       (落窪、三)

これこそは一生のおほきなる大事におもひはべれ。         (宇、樓上、下)

露臺のまへにうゑられたりける牡丹のからめきをかしき事などのたまふ。(枕、七)

法師はこの才あるかぎりめしいで瓦云々。              (源、榊)

 體言として使用せられたる梵語の例

ほとけのみいしのはちといふ物あり。               (竹取)

りしだらによみたまふ。                   (宇、国譲、下)

ぼだいかなへたまへ。                     (蜻蛉、中)

うばそくが行ふ道を知るべにて、                 (源、夕顔)

国語體言を取扱ふと同じ手續にて国語と熟合せる漢語梵語の例。

御てうづ番のうねめ。                      (枕、六)

博《バク》ち(博打)京わらはべ、                    (宇、藤原君)

右大將どのよりて本四雀いろ/\の紙にかきて、         (宇、国譲、中)

からうじてやり反故をえたまひて、                 (狭衣、三)

なん家《ケ》のなにがし。                       (枕、十一)

村上の天皇の御時にいれ文字のおぼせごとありて、        (中務集)

手はゆるしたまはむや頭中將とひとし碁なり。           (枕、八)

よるひるさうじいもひをして、                  (大和、語)

形式動詞客語たる漢語の例。

日毎にほくゑきやういちぶつゝ供養せさせたまひつゝ、       (源、若菜、下)

論議せさせてきこしめさせたまふ。                (源、榊)

あらがひ論じなどきこゆるは、                 (枕、九)

つきひたしかにしるしつ長日記してさるべきところ/\はゑにかきたまへり。     (狭、四)

わたつうみにおやをおしいれて、このぬしの盆するみるぞあはれなりける。(この盆するは純粋の漢語ならねど姑くことにあぐ。)              (枕、十二)

きつねの人に變化《ヘンゲ》するとはむかしょりきけど、            (源、手習)

なほこればかりは啓しなほさせたまへ。              (枕、九)

卑下し申したまふ。  .                   (源、若菜、上)

ごくねちの草やくをぶくして、                 (源、帚木)

国語形容詞と同じ語尾變化を享有せる漢語の例。

 聊あだあだしき御心づかひをば怠しとおぽいて、           (源、夕霧)

 かくしふねき、人はありがたきものを。               (源、空蝉)

 かれはしふねくとゞめてまかりにけるにこそ。            (源、藤裏葉)

 いと怠々しぎわざなり。              (源、桐壷)

 かく怠々しくやはならはすべき。                 (竹取)

 姫君は勞々しくふかく重りかにみえたまふ。            (源、橋姫)

 かしこまりものなどいひたるぞりやう一しき。           (枕、二)

 船君の病者もとよりこちこちしき人にて、            (土佐)

 こちこちしくさすがにわらひたまひて、               (源、初音)

 たゞはしりかきたるおもむきのさえざえしくはかばかしく佛神もき曳入れたまふべきことはあきらかなり。                       (源、筆若菜、下)

國語動詞と同じ語尾變化を享有せる漢語の例。

 いときよげにうちさうそきて出給ふを、              (源、葵)

 をさなき人まみらまほしげにおもひたればさうそかせていだしたつ。  (蜻蛉、中)

 うつくしきものどもさまざまにしゃうぞきあつまりて、       (蜻蛉、中)

 この内侍常よりもけに清げにやうだいかしらつきなまめきてさうそありさまいと花やかにこのましげに見ゆるに、                     (源、紅葉賀)

 なにの心ばせありげもなく、さうどきほこりたりしに、        (源、夕顔)

 ひみづめしてすみはんなどとりどりにさうどきつゝくふ。       (源、常夏)

「なにぞもぞな」どさうどきて、侍從はあるじの君にうちかづけていぬ。 (源、竹川)

 心とげに見えてきはきはとさうどけば、              (源、空蝉)

 いろいろのさいくをものいみのやうにてさいしきつけたるなどもめづらしく見ゆ。 (枕、五)

 男のうちさるがひ物よくいふがきたるは、             (枕、七)

副詞として用ゐられたる漢語の例。

こよひよりは一向《イカウ》にあひたのみ給へ。      (落窪、二)

こがね百兩をなん別《ベチ》にせさせたまひける。 (源、横笛)

くにゆづりは實《ジチ》にいつほどにかはべらむ。 (宇、國譲、下)

あめのあしおなじ様にて、 (蜻蛉、中)

凛々としてこほりしけり。 (枕、十一)

随分にいたはりかしづき侍りけるを、 (源、手習

無心に心づきなくてやみなむ。 (源、帚木)

日ごろの中にけふなんいとまうに物いりたらむとみえける。 (落窪、三)

げに唯ひとへに艶にのみあるべき事かは。 (源、葵)

おほしかいもとあるじはなはだひざうに侍りたうぶ。        (源、少女)

かくやひめの形いと優におはすなり。        、      (竹取)

せちにいなといふことなれば、                 (竹取)

いときやうざくになりまさりにけり。               (宇、嵯峨院)

かねまさげんにある事ならばこそとり申さざらめ。         (宇、初秋)

国語副詞と熟合して副詞の資格を享有せる漢語の例。

最《サイ》はてのくるまに侍らん人はいかでかとくはまるりはべらむ。     (枕、十)

「やう」といふ漢語は上に體言をうけて副詞の資格を享有す。

大なるひわりごやうのもの数多せさせ給ふ。            (源、橋姫)

中少將何くれの殿上人やうの人は何にもあらず、消え渡れるは更にたぐひなうおはしますなりけり。              (源、御幸)