2011-03-17
■ 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』おほむね上(1)
師(註一)曰、名(二)をもて物をことわり、裝(三)をもて、事をさだめ、挿頭・(四)脚結・(五)をもて、ことばをたすく。この四のくらゐは、はじめひとつのことだま(言靈)なり。あふよりて(六)さだまれるもあり。とよりて(七)かよひなれ(化)るもあり。いはゞおなじき木といへど、おほきなるをば家につくり、ふねにつくり、ちひさきをばつくゑにつくり、はし(箸)につくるは、むかしよりよろしきにしたがふ也。又、まゆみを、弓ならぬものにもけづり、桐をぱこと(琴)ならぬ物にもきるは、たよりにしたがふなり。さてまろくいかめしく(嚴)こなせるをばはしらといひ、よすみにさゝやか(小)にあはせたるをば、はこ(箱)といひて、もとなにの木ともたづねしりがたきもあるがごとし。
註
(一)富士谷成章をさす。此の書は、門人吉川彦富・井上義胤・兩人が其の師説を筆詑したものである。
(二)名詞。
(五)[あゆひ]とよむ。助詞.助動詞・接尾語・を指す。裝・頭挿・脚結・は、言語の分類を古代の服裝に喩へたものである。
(六)昔によりて、昔より。
(七) 後世によりて。