国語史資料の連関

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2010-03-09

音便の事」(『玉勝間』巻一) 「音便の事」(『玉勝間』巻一) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 「音便の事」(『玉勝間』巻一) - 国語史資料の連関 「音便の事」(『玉勝間』巻一) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

古語の中にも、いとまれ/\に音便あれども、後の世のとはみな異なり、後ノ世の音便は、奈良の末つかたより、かつ/゛\みえそめて、よゝをふるまゝに、やう/\におほくなれり、そは漢字三音考の末にいへるごとく、おのづから定まり有て、もろ/\の音便五くさをいでず、抑此音便は、みな正しき言にあらず、くづれたるものなれば、古書などをよむには、一つもまじふべきにあらざるを、後ノ世の物しり人、その本ノ語をわきまへずして、よのつねにいひなれたる音便のまゝによむは、なほざりなること也、すべて後ノ世には、音便の言いとく多くして、まどひやすし、本ノ語をよく考へて、正しくよむべき也、中にも「ん」といふ音のことに多き、これもと古言の正しき音にあらず、こと/゛\く後の音便也とこゝろうべし、さてその音便「ん」の下は、本ノ語は清ム音なるをも、濁《ニゴ》らるゝ、音なれば、皆かならず濁る例也、たとへば「ねもころ」といふ言を、後には「ねんごろ」といふがごとし、「ん」の下の「こ」もじ、本ノ語は清ム音なるを、上の「も」を「ん」といふにひかれて濁る、みな此格なり、然るを世の人、その音便のときの濁リに口なれて、正しくよむときも、「ねもごろ」と、「こ」をにごるはひがこと也、此例多し、心得おくべし、