国語史資料の連関

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2010-03-10

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貰って来た雑誌小説を、少し読み掛けて見ると、それは/\大変だらうぢゃないか、江戸ッ子の職人だとか云ふ若造が、二言目には「ベランメエ」さ、然うかと思うと、「内らにはそんな者は居ねえ」とか、「何う為すった」と云ふ事を「何うなした」だとさ、丸で舌ッ足らずなんだよ、だもんだから馬鹿/\しくって、それから読む気にならなかったが、知らない事は止すと好いネ、本当に聞いた風な附焼刄は冷汗が出るよ。

みき『何うも諸国入れ込みなんだから仕方がありませんよ、われ/\仲間にだって、音の違った江戸ッ子が幾らもあるんだから。

辰『場違ひの癖に江戸がられた日には目も当てられないのさ、それぞも其変挺な詞が偽物だと知れない中が花さ。

みき『お客様も九分は田舎だから、今に東京詞の生粋は失って了うでせうよ。

辰『情ないネ、オキャアセ種の安売流でなけりゃア、カラキシ駄目と云ふ世々界《よせかい》ては、お前逹も考へ物だ。

蝶『オキャアセって云ふのは名古屋ネ。

辰『アヽ、お前も東京生れだから駄目だよ。

蝶『然う。

みき『嘘だよ、阿母さんの云った事は冗談さ、幾ら東京者だって、アラやアだッてな事を云ってさへ居れば好いのさ。

辰『今時のお酌の詞なんて来たら、丸で女学生だ、紅葉館の京都ッ坊が幅をするんだもの、首ッ玉へ髭ッ面を擦り付けられてもジッとして居るぐらゐの度胸が無けりゃア、銭のある客は付かないよ。

岡鬼太郎「昼夜帯」明治39年

http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/887247/16

言及

「幾ら東京者だッて、「アラやァだ」ッてな事を云ってさへ居れば好いのさ」

吉川泰雄『近代語誌』p.217