2009-05-05
■ です(大槻文彦)
「です」わ、「でござります」が、いろいろに遷りかわつて、段々と約まつて出来た語で、そのうつりかわりのまち/\なことわ、次のようである。
但し、「で」と合わせれば、指定の助動詞のようになるが、「で」を除けば、独立の「ある」と云う意味の敬譲動詞であるのが、此中に多い。
でござります でごあります でございます でござりやす
でござんす でござえす でごぜす
でごあす でこわす でがあす
でごあんす羽前西村山郡 でこわんす でがいます安藝安佐郡
でごいす青森 でげいす でごつす
でごんす でこす でがんす
でやんす羽前西村山郡 であす陸中 ぢやんす日向宮崎
段々、末の方になると、打消を形作らせられぬ。「です」と云つても、「でせぬ」と云われぬ。又「ですれば」ともつかわれぬ。
江戸、新吉原、遊女詞、おざりいす ざいます ざます ざんす
東京で、「そうなりましてす、」(「待ちましてした」十二時頃でございましてしょう」)仙台で「そうすか」(左樣でござりしてござりす)など云うわ、「す」の一音になったのである。
「です」わ、「であります」の約まつたものであると云う説もあるが、そうでわない。前に挙げたいろ/\な語に、「ご」が」げ」あ」や」の音が伴つて居るので、「ござります」の姿が認められて、それの遷りかわったのであることが分る。
右の「でござります」から「です」までわ、今でも、地方に因り、身分、仲間に因つて、いろ/\につかいわけられて居るが、「でございます」と「です」との外わ用いぬがよい。
吉川泰雄『近代語誌』pp.30-31