2009-03-04 2009-03-04 ■ [方言意識史]九州弁の政談(永井荷風) 物音の中で最もわたくしを苦しめるものは、板堺一枚を隔てた隣家のラディオである。 夕方少し涼しくなるのを待ち、燈下の机に向おうとすると、ちょうどそのころから亀裂の入ったような鋭い物音が湧き起って、九時過ぎてからでなくては歇まない。この物音の中でも、ことにはなはだしくわたくしを苦しめるものは九州弁の政談、浪花節、それから学生の演劇に類似した朗読に洋楽を取り交ぜたものである。 永井荷風「濹東綺譚」 五ツイートする