国語史資料の連関

国語史グループにあったブログ

2009-02-03

[]朗々と吟ずる/黙読 朗々と吟ずる/黙読 - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 朗々と吟ずる/黙読 - 国語史資料の連関 朗々と吟ずる/黙読 - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

佳人之奇遇の華麗な文章は協志社にも盛に愛読され、中に数多い典麗な漢詩は大抵諳記された。敬二が同級で学課は兎に角詩吟は全校第一と許された薄痘痕の尾形吟次郎君が、就寝時近い霜夜の月に、寮と寮との間の砂利道を『我所思在故山…月横大空千里明、風揺金波遠有声、夜蒼々兮望茫々、船頭何堪今夜情』と金石相撃つ鏗鏘の声張り上げて朗々と吟ずる時は、寮々の硝子窓毎に射すランプの光も静に予習の黙読に余念のない三百の青年ぶる/\と身震ひして引き入れられるやうに聞き惚れるのであつた。

  (徳富蘆花『黒い眼と茶色の目』)

前田愛明治初年の読者像」『近代読者の成立