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2009-01-12

■ [表記意識][言語教育]江戸時代の楷書(岡本綺堂) 

岡本綺堂『風俗江戸物語』河出文庫 p.126

 楷書を教えなかった手習師匠

 上方《かみがた》では手習《てならい》を教えるところを寺子屋と唱えていましたが、江戸では寺子屋とは言いません。単に手習師匠といっていました。

 この時代には、手習師匠のところで教える文字は、仮名・草書・行書の三種類だけで、決して楷書《かいしよ》は教えなかったのです。その当時は楷書というものを現今の隷書《れいしよ》のように見なしていたので、普通一般には使用されなかったのです。

 むしろを実用的の字として認めないくらいであったのです。現今の人達が隷書を知らぬといっても少しも恥にならないのと同じように、昔の人達は楷書が書けないといっても、決して恥にはならなかったのです。

 公文書、その他の布達なども、必ず草書、即ち御家流《おいえりゆう》が用いられ、出版物には多く行書が使用されていました。従って楷書というものは一種の趣味として習うくらいのもので、別に書家について習わなければなりませんでした。

 手習師匠と書家とは、全然別種のものであることはいうまでもありません。

藤田眞一氏「〈書家〉蕪村」(大阪大学国語国文学会 2009.1.10)の指摘で知る。

岡本綺堂『風俗江戸東京物語河出文庫 ISBN:4309406440



今井金吾「古書の楽しみ(20)都路往来と木曽路往来」(日本古書通信776(1994.3))

岸井良衞「手習いの師匠」*1