2007-12-01
■ [文体]「歌と文との詞の差別」(本居宣長『玉あられ』)
歌と文との詞の差別
おほよそ同じき雅言の中にも、歌の詞と文の詞と、差別あるがあるを、今の人は此差別なくして、歌の詞にして、文にはつかふまじきを、文につかふことおほし、心すべし、たとへば花にたをるといふは歌詞也、文にはたゞをるといふべし、車を小車といふは歌詞也、文にはたゞ車といふべし、さよふけてといふは歌詞也、文には夜ふけてといふべし、水ぐき玉づさなどいふは歌詞也、文にはふみといふべし、かやうのたぐひいと多し、今は思ひ出るまゝに、たゞ二つ三つをあげつ、但し文には、くさ/゛\のふり有て、序など其ほかにも、或は枕詞をおきなどして、すべて歌のごと、詞を花やかにしたつるやうもあり、そはその文のふりによること也、又なべてはさらぬ文の中にも、事によりては、一言二言歌詞をことさらにまじふるやうのこともあり、猶さやうのこまかなる事共までは、たやすくはつくしがたし、又ついでもあらば、別にくはしくいふべし、今はたゞ大かたをおどろかしおくのみぞ、