2007-09-07
■ 古今集遠鏡例言 5
○すべて人の語は、同じくいふことも、いひざまいきほひにしたがひて、深くも淺くも、をかしくもうれたくも聞ゆるわざにて、歌はことに、心のあるやうを、たゞにうち出たる趣なる物なるに、その詞の、口のいひざまいきほひはしも、たゞに耳にきゝとらでは、わきがたければ、詞のやうをよくあぢはひて、よみ人の心をおしはかりえて、そのいきほひを譯《ウツ》すべき也、たとへば春されば野べにまづさく云々、といへるせどうかの、譯《ウツシ》のはてに、へゝ/\へゝ/\と、笑ふ聲をそへたるなど、さらにおのがいまのたはぶれにはあらず、此下句の、たはぶれていへる詞なることを、さとさむとてぞかし、かゝることをだにそへざれば、たはぶれの答なるよしの、あらはれがたければ也、かゝるたぐひ、いろ/\おほし、なずらへてさとるべし、