国語史資料の連関

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2007-09-03

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 雲のゐるとほきこずゑもとほかゞみ うつせばこゝにみねのもみぢ葉

此書は、古今集の歌どもを、こと/゛\いまの世の俗語《サトピゴト》に譯《ウツ》せる也、そも/\此集は、よゝに物よくしれりし人々の、ちうさくどものあまた有て、のこれるふしもあらざなるに、今さらさるわざは、いかなればといふに、かの注釋といふすぢは、たとへばいとはるかなる高き山の梢どもの、ありとばかりは、ほのかに見ゆれど、その木とだに、あやめもわかぬを、その山ちかき里人の、明暮のつま木のたよりにも、よく見しれるに、さしてかれはととひたらむに、何の木くれの木、もとだちはしかく、梢のあるやうは、かくなむとやうに、語り聞せたらむがごとし、さるはいかによくしりて、いかにつぶさに物したらむにも、人づての耳は、かぎりしあれば、ちかくて見るめのまさしきには、猶にるべくもあらざめるを、世に遠《トホ》めがねとかいふなる物のあるして、うつし見るには、いかにとほきも、あさましきまで、たゞここもとにうつりきて、枝さしの長きみじかき、下葉の色のこきうすきまで、のこるくまなく、見え分れて、軒近き庭のうゑ木に、こよなきけぢめもあらざるばかりに見ゆるにあらずや、今此遠き代の言の葉の、くれなゐ深き心ばへを、やすくちかく、手染の色にうつして見するも、もはらこのめがねのたとひにかなへらむ物をや、かくて此事はしも、尾張横井千秋ぬしの、はやくよりこひもとめられたるすぢにて、はじめよりうけひきては有ける物から、なにくれといとまなく、事しげきにうちまぎれて、えしもはたさず、あまたの年へぬるを、いかに/\と、しば/\おどろかさるゝに、あながちに思ひおこして、こたみかく物しつるを、さきに神代のまさことも、此同じぬしのねぎことにこそ有しか、さのみ聞けむとやうに、しりうごつともがらも有べかめれど、例のいと深くまめなるこゝろざしは、みゝなし山の神とはなしに、さて過すべくもあらずてなむ、