国語史資料の連関

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2007-08-07

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復軒雑纂

日本文法論 洋々社談第七号 明治八年十月

方今我国の文学に就きて最大の缺典とするは 日本文典の全備せる者なきなり 是なきは 独 我国文学の基礎立たざるのみならず 外国に対するも真に外聞悪しき事ならずや 是に由て近来世上の議者も論の文法に及ぶ者紛々たり 然るに我国古言文典に就ては 既に先輩の著作せる数種の書あり 其語格整然 厳として犯すべからざる 所謂言霊のさきはふ霊妙の文法 今之を頒賛するを待たざるなり 然れども余を以て之を見るに 先輩皆 唯 名詞動詞形容詞・及びてにをは等を論ずるのみ 他の代名詞副詞接続詞・感詞?等は 或はてにをはに混じ 或は更に品別せし所なし 且其文法古言高尚の体にして 直に之を今日日用に供せんとするときは大に不通なるを免れず 又今言文典に就ては世に未だ其撰あらず 而して議者の立説も亦各異同あり 其文法を論ずる老は 或は古今を折衷せんと云ひ 或は直に普通の俗語文法を附して用ヰそと云ひ 又其文字を論ずる者は 或は漢字仮字を混用すること現今の文体の如くせんと云ひ 或は単に仮字のみ用ゐんと云ひ 或は全く洋字に改めんと云ひ 或仮字遣を論じては 音便に呼ぶ者は直に其発音仮字に改定せんと云ふ 

其他諸説の異同も亦多し 然れども愚、熟つら日本の言語を思考するに 古今の変化 今俄に之を見れば大に異れる所あるが如しと雖ども 我国の人種は 他の諸外国と異にして 古来外国の種を交へしことなく同一人種の歳月を経るに随ひ 言語に幾許の変遷を生ぜしのみのことなれば 今言?の原は皆古言に出でしこと昭々たり 然れども古言は純素にして語格斉々たり 今言は繁雑にして訛謬?も百出す 故に今其文法を定にとするには 古言今言 其難易の差あること知るべきのみ 依て愚案には 今に当て先づ一大全備の古言文典を編すべし 

古言文典既に成るに至らば 一は之を古言高尚学の用とし 一は之を今言文典を編すべき基礎として 漸次に今言文典を製するに及ばヽ 編作の労 正に其の順序を得る者とせん 又彼の文字論の如きは 先づ現今の所用の如く漢字仮字混用を以て記すべし 書体文法既に成るに至らば 書中の字形を変ずるは容易く為し得べきことにして 此議最も後に行ふべきなり 然して今言文典創製の業に至ては 其文法の 或は古今を折衷すると 或は普通の言語を以てすると 其一定適当の説を得ること 実に是れ一大難案にして 能く幾多の学士を集め 幾多の歳月を期するにあらずんば 其成功を見ること能はざるべし 然れども此議論を発起する今日より早く此に着手せずば機会益遅延せん 故に余は徒に議論に日月を費さんよりは 偏に早く編作に起業せんことを希ふなり 其文字論言語論・文章論の如きは 異日鄙考を述べて 諸君の是正を乞ふことあるべし http://kindai.ndl.go.jp/BIImgFrame.php?JP_NUM=52010827&VOL_NUM=00000&KOMA=233&ITYPE=0