国語史資料の連関

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2007-05-17

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世事百談)方言 

漢の楊子雲?、輶軒絶代語の撰あり、世に楊子方言といへり、わが邦にて近來越谷吾山といふ俳人物類稱呼をあらはしたり、

ある人大和の國の方言をすべいへる諺とて、

 てい/\ござれ、さうはつちや、かたつか、けんずゐ、ゑそまつり、

おもふに、てい/\ござれは、歩行の義、あるきてござれと云ふに同じ、さうはつちやは、左樣と云ふ詞にて、はつちやは助語のはたらきなり、かたつかは、つまらぬといふ俚語に同じ意ばへにて、かたつかもないなどゝもいへり、けんずゐは、間炊なるべし、中食のことなり、籠耳に、晝食くふこと、人によりてその名目たがひあり、侍は中食といひ、町人は畫食といひ、寺がたに點心といひ、道中はたご屋にてひる息といひ、農人は勤隨といひ、御所方にて女中のことばには御供御といふとあり、又風俗文選の汶村?が南都賦?に、なら茶をヤチウと名づけ、畫食を硯水といふともいへり、しかれども勤隨、また硯水、ともに字音の假借なるべし、ゑそまつりは、ゑそは魚の名なり、大和は海なき國にて、神事祭禮ありとも、ゑそなどの海魚の得がだきをもて、肴に酒宴することはなみのことにてなしといふこゝろにて、珍肴をそなへたるふるまひなどのあるときの言なり、出羽の方言をいふ諺に、

 あいべちや、こいちや、ござもせちや、

あいべは行けといふこと、こいは來れといふこと、ござもせはござれといふ方言なり、ちやは助語にて、かの國にてつねにいふことゝぞ、盛岡あたりの方言をいふ諺に、

 びる、どんぼ、がに、げいる*

蛭、蜻蛉、蟹、蟇なり、陸奥の俗は濁音多ければなり、また筑紫がたにては、詞の末にばつてんといふ助語を、そへていふことあり、聞きなれぬものは、耳にかゝりてをかしきやうに思へど、今常にさういうたればとて、しかじかなりといふこと、誰もいふことにて、ばとてといふ詞の國のなまりにて、ばつてんとなるなり.すべて國によりて品物の名の異なるは、さもあるべきことなれど詞の轉訛は大かた音便よりくづれて、終には詞のもとのわからぬこと多かり、


古事類苑人部十一言語