2007-04-11
■ [言語意識史]「僕が面白うない」(二葉亭四迷「平凡」三十)
「そ、そ、その僕が面白うない。君僕というのは同輩或は同輩以下に対(むこ)うて言う言葉で、尊長者に対(むこ)うて言うべき言葉でない、そんな事も注意して、僕といわずに私(わたくし)というて貰わんとな……」
「は……不知(つい)気が附きませんで……」
「それから、も一つ言うて置きたいのは我々の呼方じゃ。もう君の年配では伯父さん伯母さんでは可笑(おか)しい。これは東京の習慣通り、矢張私(わし)の事は先生と言うたら好かろう。先生、此方(このかた)が御面会を願われます、先生、お使に行って参りましょう――一向可笑(おか)しゅうない。先生というて貰おう。」
「は、承知しました。」
「で、私(わし)を先生という日になると、勢い家内の事は奥さんと言わんと権衡(けんこう)が取れん。先生に対する奥さんじゃ。な、私(わし)が先生、家内が奥さん、――宜しいか?」http://www.aozora.gr.jp/cards/000006/files/3310_8291.html