国語史資料の連関

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2006-05-03

曲亭馬琴稗史七法則 曲亭馬琴の稗史七法則 - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 曲亭馬琴の稗史七法則 - 国語史資料の連関 曲亭馬琴の稗史七法則 - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

唐山元明の才子らが作れる稗史にはおのづから法則あり。所謂法則とは、一に主客?、二に伏線、三に襯染?、四に照応?、五に反対?、六に省筆?、七に隠微?すなはち是れのみ。主客は此間の能楽にいふ「シテ?」、「ワキ?」の如し。其書に一部の主客あり、又一回毎に主客ありて、主もまた客になることあり、客もまた主にならざるを得ず。又襯染は其事相似て同じからず。所謂伏線は後にかならず出だすべき趣向あるを数回前に些と墨打をして置なり。又襯染は下染にて、此間にいふ「シコミ」のことなり。こは後に大関目の妙趣向を出さむとて、数回前より其事の起本来歴をしこみおくなり。金瑞?が『水滸伝』の評註には縇染?に作れり、即ち襯染におなじ。共に「シタゾメ」とよむべし。又照応?は照対?ともいふ、例へば律詩?対句ある如く、彼れと此れと相照して趣向?に対を取るをいふ。照対は重複に似たれども、必ず是れおなじからず。重複は作者あやまつて前の趣向に似たる事を後に至りて復出だすをいふ。又照対はわざと前の趣向に対を取て彼れと此れと照すなり。例へば船虫媼内が牛の角を以て戮せらるゝは北越二十村なる闘牛の照対なり、又犬飼現八?が千住河にて繋舟の組撃は芳流閣?上なる組撃の反対なり。この反対照対と相似ておなじからず。照対は牛をもて牛に対するが如し、其物は同じけれども其事は同じからず。又反対は其人は同じけれども其事は同じからず。又省筆?は事の長きを後に重ねていはざらん為に、必ず聞かで叶はぬ人に偸聞させて筆を省き、或ひは地の詞をもてせずして其人の口中より説出だすをもて長からず、作者が筆を省くが為に看官もまた倦ざるなり。又隠微?は作者の文外に深意あり、百年の後知音を俟ちて之れを悟らしめんとす。『水滸伝』には隠微多かり、李贄?、金瑞?らはいへばさらなり、唐山なる文人、才子に『水滸』を弄ぶ者多けれども、評し得て詳かに隠微を発明せしものなし。



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浜田啓介馬琴の所謂稗史七法則について」『国語国文』第二八巻第八号

徳田武「第十三章 馬琴稗史七法則と毛声山?の「読三国志法」」