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2005-10-10

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第四回 明治二十四年四月二十三日

大奥の事

答問者

 旧幕|中臈《ちゆうろう》箕浦はな子

 同|御次《おつぎ》佐々鎮子

岩波文庫による

◎問 将軍の御言葉はどういう風ですか。古本《ふるほん》で二代将軍の御言葉を見ましたが、「おじゃる」というようなことがあったようです。やはりそんな言葉を遣《つか》ったのですか。

◎答 御自分様のことを「こちら」と申されました。

◎問 御付の方の言葉は、やはり遊ばせ言葉でしたか。

◎答 さようでございます。

◎問 下方《しもかた》で遣っている遊ばせ言葉と同じですか。

◎答 さようにございます。将軍様は御自分のことを、自分が自分がともおっしゃったこともございました。此方《こちら》とか自分とかおっしゃいました。

◎問 御台様は何と申されましたか。

◎答 御台様は「私《わたくし》」とおっしゃいました。私は嫌いじゃとか、好きじゃとか、あーじゃ、こーじゃとおっしやったのでございます。公方様は、いやだ、好きだとおっしゃって、別に通常の言語と変ったことはございませぬ。

◎問 彼方《あなた》がたが御台様に何かおっしゃるときは、何というのですか。

◎答 御前《ごぜん》と申します。

◎問 将軍家には。

◎答 上《かみ》と申します。この御湯取は上のであるとか、上の御|薬缶《やかん》だとか申すのでございます。


小松寿雄「後期江戸語武家言葉『国語と国文学』1985.5「近代語の研究」