2011-03-22
■ 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』おほむね上(6)
私云、引歌のかみに、集の名をしるさゞるは、古今集也。(註一)
又云、此抄もと歌をひろくひきて、あまねくみあはせむたよりとせるを、こたみ(此度)はみなはぶきすてゝ(二)、あとをしるす(三)べき歌は、ひとつふたつづゝをとゞむ。繼あゆひはかぎり有べくもあらねども、あたり/\其詞をのみしるして、里言をあてつゝ、引歌をば、もとの抄にゆづりて此の抄にのせず。
又云、屬・家・倫・等の下に、まづそのおもぶき(趣)をさだめとける詞の、くだりの上をみじかくて(四)かけるを、[はしがき]といふ。條の下に、其あゆひのうけざまさだまれるよしなどをちひさくくだり(行)をならべてかけるを、[つまがき](五)といふ。條の末に、くだりのかみみじかくかけるを、[うらがき](六)といふ。皆本抄のすがたによりていはせたり。
註(一)此のことは、本書の證歌については、常に注意せねばならない。
(二) はぶく前の書をば、あゆひ本抄といつたので、處々に「本抄に見ゆ」といふ語がある。此の本抄の傳らないのは、甚だ惜しい。
(三) 正例を指す。之に對して、變例をさしおきと稱し、疑例を[捨つるあと]ゝ稱して居る。[しるす]は[しる]の誤か。
(四) 一段さげて書いたもの。
(五)例へば、咏屬何やの條の下に、[うたがひや・あつらへや・等は其屬々に出す]と二行に書いてある類。此の校註書には一行細字で記してある。
(六)例へば、咏屬何やの條の末に、(四〇頁參蝋)一字下げて書いたもの。