2011-02-14
■ [待遇表現]【お疲れ様】【御苦労様】(林四郎1972)
「御苦労様」は、人をねぎらうことばであるから、どちらかというと、上から下にむかって言うのがふさわしい。旧軍隊では、そうではなかった。上から下へは「御苦労」だけですまされ、下から上へむかって「御苦労様でした」と言うのが、私の知る限りの習慣だった。(中略)
今の世の中では、社員が社長に「社長、きのうは御苦労様でした。」と言ったら、おそらく生意気な社員に見られるだろう。これも、私自身の悩みである。私の勤める研究所で、所長が内外で大変な苦労をしているのを見て、時にどうしても「御苦労様」と言いたくなることがある。そして、言うこともあるが、言ってみて、やはり、すっきりしない。特定の事実があれば、話題をはっきりそのことにして、「お疲れになったでしょう」のように言った方が、いいように思われる。
「お疲れ様」ということばがある。これは芸能人たちがしきりに使う。放送局のスタジオなどでは、ひと番組終わって解散する人たちが、あっちでもこっちでも、「お疲れ様」「お疲れ様」と、独特の軽い調子で言い合っているのが聞こえる。今は、マスコミ時代であるせいか、芸能界のことばが、よく一般社会に流れて来るようで「お疲れ様」も、時々聞かれる。「御苦労様」に右のような制約があるのに対して「お疲れ様」には、上から下も、下から上もなさそうだから、案外これから一般に流布するかもしれない。流布してさしつかえないことばだと、私は感じている。
国文学解釈と教材の研究1972.3〈敬語ハンドブック〉