国語史資料の連関

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2010-04-14

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文字つかひの翦、此物語(源氏物語のこと)を沙汰せんにつきては、心うべきことなれば、ついでに申侍べし。中頃定家卿さだめたるとかいひて、彼家説をうくるともがらしたがひて用るやうあり。おほよそ漢字には四聲をわかちて、同文字も習にしたがひて、心もかはれば、子細にをよばず。和字文字一に心なし。文字あつまし(り歟)て心をあらはすものなり。されば古くより聲のさたなし。或は別の聲を同音に用たるあり。【】或はを音にたとへたるあり。【】この類是にかぎらず。萬葉を見てひろく心得べし。まづいろは四十七字の内、同音有は、いゐ、をお、えゑ也。此外に、はひふへほわゐうえをとよむは、詞の字のに付てつかふ文字也。しばらくいろはを常によむやうにて聲をさぐらば、おもじは去聲なるべし。定家が、おもじつかふべき事をかくに、山のおくとかけり。誠に去聲とおぼゆるを、おく山とうち返していへば、去聲にはよまれず、上聲に轉ずる也。又おしむ、おもひ、おほかた、おぎのは、おどろくなどかけり。これはみな去聲にあらず。此内おしむは、おしからめといふおりは去聲になる。思も、おもひくと云おりは、初のおもじは去聲、後のは去聲によまれぬ也。又え文字も、去聲なるべきに、ふえ、たえ、えだなどかけり。すべていづれ文字にも、平上去の三聲はよまるべき也。たとへばかもじとみもじとをあはせむに、かみ、神也。かみ、紙也。又一字にては、は、木葉也。は、楽破也。しかのみならず、同心にて同字をよむに、上下にひかれて聲かはる事あり。天竺悉曇の法に、連聲といふことあり。又内典の經など讀にも、聲明の音便によりて、聲をよみかふることのあるも皆此類なるべし。かみ、かみ、神也。といふに、ほじめのかもじは去聲によまるも又一字にとりても、序破急といふおりは、はの字平聲によまれ、破をひく、はをふくなどいふをりは、去聲になるたぐひのごとし、これにてしりぬ、和字にもじつかひのかねて定めをきがたき事を。定家かきたる物にも、緒の音を、尾の音お、などさだめたれば、音につきてさたすべきかと聞えたり。しかれども、その定たる所の四聲にかなはず。又一字に儀なけれぱ、そのもじ其にかなふべしといひがたし。音にもあらず、儀にもあらず、いづれの篇に付てさだめたるにか、おぼつかなし。