国語史資料の連関

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2010-01-03

[]「漢字節減なぞ称ふる人あれどそれは小説家には当てはまらず」(永井荷風「小説作法」「漢字節減なぞ称ふる人あれどそれは小説家には当てはまらず」(永井荷風「小説作法」) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 「漢字節減なぞ称ふる人あれどそれは小説家には当てはまらず」(永井荷風「小説作法」) - 国語史資料の連関 「漢字節減なぞ称ふる人あれどそれは小説家には当てはまらず」(永井荷風「小説作法」) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

一 東京市中自動車の往復頻繁となりて街路を歩むにかへつて高足駄の必要を生じたり。古きものなほ捨つべきの時にあらず。日本現代の西洋摸倣も日本語の使用を法律にて禁止なし、これに代ふるに欧洲語を以てする位の意気込とならぬ限りこの国の小説家漢文を無視しては損なり。漢字節減なぞ称ふる人あれどそれは社会一般の人に対して言ふ事にて小説家には当てはまらず。凡そ物事その道々によりて特別の修業あり。桜紙にて長羅宇を掃除するは娼妓の特技にして素人に用なく、後門賄賂をすすむるは御用商人の呼吸にして聖人君子の知らざる所。豆腐々々と呼んで天秤棒かつぐには肩より先に腰の工合が肝腎なり。仕立屋となれば足の拇指を働かせ、三味線引となれば茶椀の底にて人さし指を叩いて爪をかたくす。漢字日本文明の進歩を阻害すといひたければいふもよし、在来の国語存するの限り文学に志すものは欧洲語と併せて漢文の素養をつくりたまへ。翻訳なんぞする時どれほど人より上手にやれるか物はためしそかし。