国語史資料の連関

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2009-02-27

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川崎 はい。そのころは、ぼくがその歳までしゃべっていた東京ことばってものが、即、正しい日本語だっていうふうに思い込んでいたし、また、当時は日本中に標準語っていうものを、それもなるべく東京ことばをお手本に広めようという教育が行われていたんですよね。

(中略)九州の中学生とこれから一緒になるわけだけれども、(中略)、国語読み方だけはね、負けないぞ、こういうふうに思ってたわけね。たしかに、国語の時間なんかに本を読んでるとね、先生がそばへ寄ってきて、こうやって耳かたむけたりするわけですよ。非常に、こう自尊心を満足させられましたよ(笑)。

 ところがある日ね、番長というか、おっかないのがいたわけ、クラスに。取り巻きを三、四人連れてぼくのところへ来て、川崎、ちょっと、今のことばでいうと何だろうな、顔貸せってなことですね(笑)。

(中略)校庭の隅でね、川崎、お前、一から十まで数えてみろって言われたんですよ。いち、に、さん、し、ご、ろく、ひち、はち、くう、じゅうって言い終わったら、その番長がニヤッと笑ったんですよね。川崎、お前はいま、七ね、セブンを、しちを、ひちと言ったと。そのひちというのは、東京の方言ばいと言われたんですね。

 それまで、それだけが頼りだった天狗の鼻みたいなものを、ピンと折られた感じでね。ほんとにまいりました、そのときは。

 ま、それがきっかけで、方言というものにたいへん興味を持つようになってね、九州には九州ことばがあるように、東京には東京ことばがあるんだってなことに気がついたわけですね。

川崎洋『交わす言の葉』沖積舎 p.24