2009-01-29 2009-01-29 ■ なでふ女が真字書は讀む(『紫式部日記』) ふる歌物語の、えもいはず蟲の巣になりにたる、むづかしくはひちれば、開けて見る人も侍らず。片つ方に、文どもわざと置き重ねし、人も侍らずなりにし後、手觸るる人もことになし。それらをつれづれせめてあまりぬる時、一つ二つひきいでて見侍るを、女房集まりて、「おまへはかくおはすれば、御さいはすくなきなり。なでふ女《をんな》が眞字書《まんなぶみ》は讀む。昔《むかし》は經《きやう》讀《よ》むをだに、人は制《せい》しき」と、しりうごちいふを聞き侍るにも、物忌みける人の行く末、いのち長かるめるよしども、見えぬためしなりと、いはまほしく侍れど、思ひ隈なきやうなり。 吉沢義則「国風暗黒時代に於ける女子をめぐる国語上の諸問題 」ツイートする