2007-06-18
■ 芥川龍之介の「漢字と仮名」(「澄江堂雑記」)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/3745_27318.html
十三 漢字と仮名と
漢字なるものの特徴はその漢字の意味以外に漢字そのものの形にも美醜を感じさせることださうである。
仮名 は勿論使用上、音標文字 の一種たるに過ぎない。しかし「か」は「加」と云ふやうに、祖先はいづれも漢字である。のみならず、いつも漢字と共に使用される関係上、自然と漢字と同じやうに仮名 そのものの形にも美醜の感じを含み易い。たとへば「い」は落ち着いてゐる、「り」は如何 にも鋭いなどと感ぜられるやうになり易いのである。これは一つの可能性である。しかし事実はどうであらう?
僕は実は
平仮名 には時時 形にこだはることがある。たとへば「て」の字は出来るだけ避けたい。殊に「何何して何何」と次に続けるのは禁物 である。その癖「何何してゐる。」と切れる時には苦 にならない。「て」の字の次は「く」の字である。これも丁度 折れ釘のやうに、上の文章の重量をちやんと受けとめる力に乏しい。片仮名 は平仮名に比べると、「ク」の字も「テ」の字も落ち着いてゐる。或は片仮名は平仮名よりも進歩した音標文字なのかも知れない。或は又平仮名に慣 れてゐる僕も片仮名には感じが鈍 いのかも知れない。