国語史資料の連関

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2007-06-18

芥川龍之介の「漢字と仮名」(「澄江堂雑記」) 芥川龍之介の「漢字と仮名」(「澄江堂雑記」) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 芥川龍之介の「漢字と仮名」(「澄江堂雑記」) - 国語史資料の連関 芥川龍之介の「漢字と仮名」(「澄江堂雑記」) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

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十三 漢字と仮名

 漢字なるものの特徴はその漢字の意味以外に漢字そのものの形にも美醜を感じさせることださうである。仮名かなは勿論使用上、音標文字おんぺうもじの一種たるに過ぎない。しかし「か」は「加」と云ふやうに、祖先はいづれ漢字である。のみならず、いつも漢字と共に使用される関係上、自然と漢字と同じやうに仮名かなそのものの形にも美醜の感じを含み易い。たとへば「い」は落ち着いてゐる、「り」は如何いかにも鋭いなどと感ぜられるやうになり易いのである。

 これは一つの可能性である。しかし事実はどうであらう?

 僕は実は平仮名ひらがなには時時ときどき形にこだはることがある。たとへば「て」の字は出来るだけ避けたい。殊に「何何して何何」と次に続けるのは禁物きんもつである。その癖「何何してゐる。」と切れる時にはにならない。「て」の字の次は「く」の字である。これも丁度ちやうど折れ釘のやうに、上の文章の重量をちやんと受けとめる力に乏しい。片仮名かたかな平仮名に比べると、「ク」の字も「テ」の字も落ち着いてゐる。或は片仮名平仮名よりも進歩した音標文字なのかも知れない。或は又平仮名れてゐる僕も片仮名には感じがにぶいのかも知れない。