国語史資料の連関

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2007-05-31

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島崎藤村『桜の実の熟する時』三

捨吉は桜の樹の方へ向いて、幹事の配って来た折詰の海苔巻(のりまき)を食いながら、

「菅君、君は二葉亭の『あいびき』というものを読んだかね」

「ああ」

 と菅も一つ頬張って言った。

 初めて自分等の国へ紹介された露西亜(ロシア)の作物の翻訳に就いて語るも楽しかった。日本の言葉で、どうしてあんな柔かい、微細(こまか)い言いまわしが出来たろう、ということも二人の青年を驚かした。

 涼しい心持の好い風が来て面(かお)を撫(な)でて通る度(たび)に、二人は地の上に落ちている葉の影の微(かす)かにふるえるのを眺めながら、互いに愛読したその翻訳物の話に時を送った。