2006-05-01
■ [外国人の日本語など]アーネスト・サトウ『一外交官の見た明治維新』
日本語を話せる外国人も片手の指で数えるほどしかなかったからだ。しかし、だれもが、少しはその心得があると思っていたのである。
商用のための一種の私生児的な言葉が案出されていたのだ。中でもマレー語の駄目(ペケ)Peggi、破毀(サランバン)は大きな役をつとめ、それに「アナタ」と「アリマス」とを付け加えて、自分は複雑な取引をやる資格を持っていると銘々がそう思いこんでいた。この新造語の著しい特徴は、対話者相互の社会的地位を示す日本語のはなはだしい多様性と動詞の複雑な変化がないことである。それはもちろん、居留地以外には通用しなかったが、ヨーロッパ人がそれを用いたことは、日本人の外国人に対する態度の特徴である「夷狄」軽侮の感情に少なからず役立ったにちがいないと思われる。
(坂田精一訳・岩波文庫上p21-22 ISBN:4003342518)