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2005-03-30

[][]『南留別志』262「名乗を反す」 『南留別志』262「名乗を反す」 - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 『南留別志』262「名乗を反す」 - 国語史資料の連関 『南留別志』262「名乗を反す」 - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

一 名乗を反すといふ事、何者のしはじめたる事なる。今の世には王公大人の定れる法のやうになれるは、上をまなべばなり。詞花集の比よりと聞ゆ。異国には、斉の明帝の、ことのほかに物をいまふ性にて、人の名をかへしたる事あり。それは、唐音にて、ひゞきのかよへるをにくめば、さもあるべし。此国にては、和訓にてよむなれば、かゝるさまたげもなし。唯占術の一つになりて、人のまどへるなり。韻鏡といふ物は、唐音を正すべき為に作れる書なるを、うらかたの書のやうに覚ゆるは、おろかなる事のいたれるなり。韻鏡にのせたる字は、一音なる字多き中にて、近く聞きなれたる字を一つ出せる事なれば、その字の義にてのみ、吉凶をさだむべきやうなし。一音の字多き内には、あしき義の字もあるべけれども、とにかくに書面に見えたる字の義をのみとれるは、易の辞などのやうに心得たるにや。此故に今の世には、とほり字の同じくて、うまれしやうの同じき人は、皆同じ名のりなり。名乗のおこなばれぬ世なればこそ、かくにてもまがひもなげれ。昔のごとく、姓と名乗とにて、世におこなばゞ、一万の人のあつまりたる都にては、同名の人の四百も五百もあるべきなり。


古事類苑 姓名部九「名下」「反切人名


可成三註

一 名乗を反すといふ事、何者のしはじめ、

詞花集、日本七十六世康治天皇之時。崇徳上皇命2(シテ)藤原(ノ)顕輔1撰焉。

◎章按、詞花ノカヘシ邪ノ字ニナルト云コト、九条家日次記ニ見エタリ。詞花集人皇七十六代近衛帝ノ時、藤原顕輔ニ勅シテ撰セシム。字ヲ反スハ、コノ時ニ起リ、名ヲ反スハ、人皇百八代後陽成帝文禄ノ頃ヨリ甚盛ニナリタリ。

 則按、名ヤ、字ヤ、最字ヲ撰ムベシ。イニシヘ申繻ガ名ヲ論ゼシ故実取ニ足リ。此事ハ、左伝ノ桓公六年ニノセタリ。韻鏡反切ヲシ出シタルコトハ、近キ世ノナラハシナリ。切字ノコトハ、西域ヨリ中華ニ伝ヘタルコトナリ。古方ニシルシ侍ル。又字ノ偏旁ヲ以テ、相生相尅ヲミタリ、惣括図ノ五行ヲ配当セシヲ以テセンヤ、イカニト云ニ、字ノ偏旁ニ合セ考ユレバ、齟齬スレバナリ。後世字劃ヲ以卦ヲ起シ、易語ヲ引ゴトキハ、売僧ノ弄戯ナルベシ。

 則按、事物紀原?曰、切字本出2西域1。漢人訓v字。止曰3読如2某字1。未v用2反切1。然古語已有2二声合為v一者1、如2不v可v為v〓、何不v為v盍、如v是為v爾、而已為v耳、之乎為v諸之類1。以2西域二合之音1。蓋切字之原也。瑯耶代酔曰。宇文周時有2亀慈国人1。来并伝2其西域七音之学於中国1。於v楽為2宮商角徴羽変徴之七調1。於v字為2喉牙舌半唇之七音1。蓋有耳字天竺妙語多由2於音1。中国之人亦所v未v知v之也。元世祖時巴思八得2仏氏遺敦1。制2蒙古字平上去入四声之韻1。分2唇歯舌牙喉七音之母字1。甚簡約。而凡人之言語尚有2其音1者。一無v所v遺。

 又曰。七音韻鏡出v自2西域1。応2琴七絃1。従衡正倒展軽成v図。不v比2華音平去上入1而已。華有2二合之字1。梵有2二合三合四合之音1。亦有2其字1。華書但琴譜有v之。蓋琴尚v音。一音雖為可一字該必合2数字之体1。華音論v読必以2一音1為2一読1。梵音論諷雖2一音1。而一音之中有2抑揚高下1。二合者其音易。三合四合者其音転難。大抵華人不v善v音。今梵僧呪v雨則雨応。呪v竜則竜見。則華僧雖v学2其声1而無2験者1。実音声之道有v未v至也。

南留別志