国語史資料の連関

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2002-06-19

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漢音正辨漢音ハ中原の音古ヘの雅音なれハ韻書の擇ふ所純一にして異なきもの也 唐音ハ彼土郷語の音にして南北方土の音不同なる者也 故に字彙にも讀韻須漢音若任郷語便致差錯といへり台家傳ふる所の例時懺法聲明集の中の漢音純轉のものにして今の漢音と音を異にするは半百餘字のみ 此例時懺法等の音は慈覺大師中華より傳へたまふはかりならす 吾傳教大師の所學を承習するもめは大學寮に參し漢音を讀習へと一心戒文に見えたれハ 往昔大學寮にて讀たる遺音なる事知ぬへし 今俗儒の所謂漢音のこときは唯三韓の音を雑ふるのみならす 其傳を失ひ何の節奏もなくなりたるもの也 是をもて今の漢音は全く和讀として中華に此音なしといふは謬れり 今もハら唐音といふは吾國より中華に使せし事六朝にもありといへとも唐の代に當り 殊に頻々たりしをもて也 もとより漢に在てハ漢音 唐に在ては唐音 宋に在てハ宋音なれは 漢音唐音は一也とすへけれと 唐音といふは通俗の音也 されハ老學菴語音之正取之中原 中原惟洛陽然四方豈不正哉 中就其多分耳といへは中華の語音ともに雅俗ある率も知ぬへし されハ吾大師上表の文にも最澄未學唐韻赤暗譯語 忽入異域 恐煩述緒竊見沙彌義眞少壮聰悟頗渉経論早習漢語粗知唐話天恩差義眞爲求法ノ譯語と見ゆ 漢音といひ唐話といふ雅俗の別ち也 吾宗保元以來頻に干戈を経て本式を失ひ纔かに例時作法法華懺法及聲明集等漢音をもて誦習へり そか中に今俗間にいふ所の漢音と其音を異にするもの一二を抄出するに勝乗稱昇並に志の音をもて呼 億臆並に[いく]の音をもて呼 白色を[はいせき]と呼 衣食を[しいしき]と呼か如き見つへし 又雲云の字並に[いん]の音也 洪武正韻に二字竃も眞韻とす 員ノ字呉員胥の員を音雲と注し行人子員の員を音云と注するより[いん]の音に呼へり 是員に在ては[いん]の音を存し雲云に在ては[いん]の音を失ふ也 又芻を音初と注し[沈]を音澄と注し振を音正と注するか如きは並に宋音にして俗音也 又勝稱の字唐音にハ[しん][いん]と呼り 又國字もて漢字を音するは拗音を雅とし直音を俗とす 延文中梓行の法華懺法なとの國字正しく恐共[くゐよう]出[しゐつ]恵[けゑい]月[ぐゑつ]とあり 源氏平家の如き[ぐゑんじ][ふえいくゑ]ハ雅也 [げんし][へいけ]ハ俗也 天竺の彦底多聲は語音の雅也 蘇漫多聲は語音の俗也 又鶴林玉露に載す硯を[松蘇利必]筆を[分直]墨を[蘇彌]頭を[加是羅]手を[提]の類ハ並に漢音にして唐音にあらす 松を〓 直を[値]に作り 看れハ[す]と[て]との音生す 康煕字典に〓息中ノ切音松と見ゆ 南山の行事鈔の中に畏難を古來[いだい]とよめり 〓奴鶏音泥とあれハ難にも[たい]の音あるへくや 同文通考漢音ハ是彼國そのかみ中原の正音にして大學寮にて教へし音也 唐音近代に及ひ取用うる事多しと云るハ信に信すへし畢竟は漢ノ正音漢ノ俗音呉音和音の四音の分ちありと知へし 漢ノ正音は古への漢音純轉の者也 漢ノ俗音ハ郷語の音今の唐音是也 呉音は江左の音也 和音國音所謂呉音に近き者也と見えたり

http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991737/40

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2562782/50