1905-12-01
■ 蓄音器の発声
(老人の聲にて)來年は御年玉によいものをあげます、
(男兒の聲にて)能く颺る凧でも賜はりますか、
(女兒の聲にて)能くはづむ鞠でも下さいますか、
(老人)さやうなものでない、書物であります、
(男兒)ノーノー、
(女兒)外のものに願ひたい
(老人)書物は書物だけれども、無點の漢文ではない、假名交りで、振り假名まで付いてをります、さうして有名な泰錦堂で石板摺にした、紅雲の挿畫が四枚付いてあります、
(男兒)ヒヤヒヤ、夫なれは頂載したい、
(女兒)ありがたい、夫なれば戴きたうございます、」
是は蓄音器の發聲なり、餘りをかしきことゆゑ、録して傀儡筥に投ず、時に天井に聲あり、鼠の笑聲、チューチューチュー 《吾妻三刀生》
『同方会誌』第二十九号(明治三八年一二月)「傀儡筥」 pp.50-51